《MUMEI》

「お兄ちゃん?何か落ちた――」
拾ったとたん、もうとの動きがピタリと止まる
どうしたのか、顔を覗き込めば
まじまじとその絵馬を眺め見ていた
「こ、これって恋神神社の恋絵馬じゃない!」
「……有名なもんなのか?」
何気なく問うてみれば
妹は三原のシャツの裾を徐に握り締めながら
「何言ってんの!?今超有名じゃない!」
「そう、なのか?」
「そうなの!〜〜もうお兄ちゃんって本当、何に対しても興味薄なんだから!」
何故か怒られた
興味がないモノに興味を持てと言われてもそれは無理な話で
最早三原そっちのけで話を盛り上げていく妹をその場に放り置き
自室へと撤退する事を決めていた
「ちょっ……、お兄ちゃん!?」
まだ話は途中だと引き止めてくる声も無視し
自室へと入ると鍵をかける
漸く静かな一時
三原はやれやれと溜息をついていた直後
その静けさは一瞬にして破られる事になる
「こらー!話はまだ終わってない!」
けたたましく部屋の戸を連打され暫くは無視を決め込んでいた三原だったが
余りの騒々しさにとうとう負けてしまっていた
「……まだ何かあんのか?」
「何?その露骨に嫌そうな顔」
「(嫌そう)じゃなくて、本気で嫌がってるんだが?俺は」
「そんなの私には関係ないもん」
「……あっそ」
「で?お兄ちゃん、どういう経緯で恋神神社に行ったわけ?」
その真意を聞かれ、三原は返答に困る
目的があったわけでは本当にないのでどう返していいか考えていると
「もしかして、お兄ちゃん、好きな人が出来たとか!?」
随分と飛躍しすぎた解釈をされてしまった様で
ソレをあっさりと否定してやる
「たまたま通りかかっただけだ。ちなみにそれはその神社に居た奴から貰った」
「貰ったって……。それって、もしかして、(恋神サマ)だったり?」
「は?何だ、それ」
「うそ!?あそこに言って恋神様に会ってこなかったの!?何やってんのよ、もう!」
何故か、叱られた
理不尽に感じながらも面倒なので敢えて返す事はやはりせず
三原は改めて踵を返し、自室へと上がった
「……恋絵馬、ね」
渡されたソレをまじまじと眺めながら
だがそういったことに今のところ縁のない三原には書く事など無く
どうしたものかと柄にもなく悩む事を始める
書いて、また持って来てくれたら嬉しい
あの少女の言葉が思い出され
このまま放置しておくのは余りに心苦しいと、筆を取った
健康第一
恋愛成就を願うソレに書く事ではないとは思ったのだが
他に書く事が思い浮かばす、三原は苦笑を浮かべる
「……明日、持ってってやるか」
内容は違えど、持って行くという約束そのものを違える訳ではない
書き終わった絵馬を鞄へと無造作に突っ込んでやりながら
そんな事を律儀にしている自身へ
また苦笑を浮かべてしまう三原だった……

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