《MUMEI》 *Monday*. 太陽の柔らかい陽射しが、大きなガラス窓から室内へ注ぎ込む。 月曜日の昼下がり、オシャレでキレイな喫茶店にはお客もまばらで、静けさが心地良い。 物静かでセンスの良い洗練されたこの空間は、今日のような日にピッタリだ。 ―――そう、 お見合いの席には。 今日のために少しだけおめかししたあたしは、初対面の男の人と向かい合わせに座って、その間を取り持つように祖母が腰かけている。 彼がオフィシャルなダークグレーのスーツを着込んでいるのは、忙しい仕事の合間を抜けてわざわざここへやって来てくださったからだということは、既に祖母から説明済みである。 祖母は珍しく優しい声であたしに呼びかけた。 「こちら、東條 匡臣(トウジョウ マサオミ)さん―――お父さまのお取引先の課長さんよ。ほら、ご挨拶なさい」 そうやって祖母に促され、あたしは「初めまして」と、余所行きの笑顔を浮かべて頭を下げた。できるだけにこやかに、上品に映るように。 男の人はにこっと笑って会釈した。黒いセルフレームの眼鏡をかけていて、そのレンズ越しに見える瞳はとても穏やかだった。 感じが良くて優しそうな人。第一印象はそれだけだ。それで充分だ。 あたしの仕草に満足したのか、今度は男の人を見て祖母が言う。 「東條さん、孫娘の茉奈美(マナミ)です。美容室の受付嬢をしてます」 『受付嬢』という言い回しに、あたしは苦笑した。世間では『レセプション』と呼ばれている仕事だと再三話しているのに、カタカナに疎い祖母にはどうも慣れないようだ。 彼―――東條さんはあたしにまっすぐ顔を向け、「初めまして」とにこやかに挨拶した。春風のように柔らかい暖かさを含むような声。その物腰はそこはかとなく、育ちの良さを窺わせた。 祖母は始終笑顔で二人の紹介をして、簡単な会話をしたあと、「あとはお二人でごゆっくり」とお決まりの文句を言い、あたし達を残したままお店から出ていってしまった。 . 次へ |
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