《MUMEI》

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祖母が消えたあと、あたし達のテーブルには不自然な沈黙が訪れた。初対面だから当然である。なのに、あんな適当な紹介だけでいきなり二人きりにされたって、何をどうやって話をすれば良いのかわからなかった。たぶん、東條さんも同じだったと思う。

少しの静寂のあと、

「無理しなくて良いですよ」

突然、東條さんが口を開いた。ぼんやりしていたあたしは、え?と間抜けな声をあげる。唐突すぎて何のことかわからない。
東條さんは笑顔を作った。

「茉奈美…さんはまだお若いですし、こんなお話をいきなり持ちかけられて困惑されたでしょう」

『こんな話』という言葉で察しがついた。お見合いのことだ。
それにしても『まだお若い』なんて。あたしは今年で27で、確か彼は32だったか。事前に祖母から聞かされた情報を記憶の中から一生懸命たぐり寄せる。歳の差はせいぜい5つくらいなのに。
『まだお若い』という台詞がイヤミに聞こえるのは僻みの強い性格のせいか。

あたしは、ああ…と曖昧に頷き、ニッコリと笑顔を張りつける。

「とんでもありません。東條さんこそ、お困りになったでしょう?この件はあたしの祖母が強引にすすめたと聞いてます」

何に対してもあたしの祖母は押しが強い。というか我が強い。こうだと決めたら周りの意見なんてどこ吹く風で、最後には絶対に自分の意見を貫き通す。

根っからのお嬢様で、ワガママ放題に何不自由なく少女時代を過ごしたためか。
それとも幼い子供たちを抱え、戦後の厳しい状勢の中を生き抜いた逞しさからなのか。
真相は定かではないが、とにかく祖母は昔からそういう人だったらしい。しかも歳を重ねるごとにその性質は酷くなる一方だ。

今回、あたしと東條さんをこの場で引き合わせたことも、そんな祖母の思いつきだった。



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