《MUMEI》

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あたしの即答の返事を聞いて東條さんは頷き、「…では最後に」と呟いてテーブルの上で両手を組んだ。

「恋人…もしくは好きなひとはいらっしゃらないんですか?」

唐突なその質問にあたしは人知れず息を呑んだ。好きなひと。すきなひと。スキナヒト…。

少し間を置いてから、あたしはニッコリ微笑み返す。


「いません」


つい、やや突っぱねるような声になってしまったのは、仕方がなかったと思う。
一瞬、返す刀で「そっちはどうなのよ?」と聞こうと思ったが、やめた。そんなことには興味がない。東條さんに好きなひとがいようといまいと、そんなことはどうでもいいのだ。


ただ、この縁談を受けてくれるなら。


あたしの答えに、「なるほど…」と呟きながら東條さんは椅子に座り直して、それから晴れやかに笑った。

「茉奈美さんのお気持ちはわかりました。結婚するにあたって、お互いに不都合がないか、事前に確認しておきたかったのです」

そう前置きしてから、不躾に質問をしたことを詫び、続けた。

「この縁談は僕にとって、願ってもないとても光栄なことです。僕の両親もさぞ喜ぶことと思います」

その言葉を聞いてあたしは安堵した。どうやらうまくまとまりそうだ。

「じゃあ、東條さんも異存はないということですね?」

「もちろんです」

結婚の意志の最終確認を終え、すっかり安心しきったあたしは、「では祖母にさっそく連絡を…」とバッグから携帯をいそいそと取り出した。祖母にお互いが合意したことを早く報告しなければならない。得意気な顔をする祖母の姿が目に浮かぶようだ。まぁあたしの思惑通りでもあるけれど。



―――けれど、



「ただし、条件があります」



突然、東條さんの真っ直ぐな声が水を差す。



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