《MUMEI》

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『条件』?


「…なんですか?」

携帯をテーブルに置き、居ずまいをただしてから、あたしは東條さんを正面から見つめた。急に雲行きが怪しくなったような気がする。そんなあたしの不安な気持ちを嘲笑うかのように、彼は至って爽やかな笑顔を浮かべた。


「『時間』を、いただけませんか?」


時間?とあたしが繰り返すと、彼は頷いた。

「僕はあなたのことを何も知らないし、それはあなたも同じだ」

そうですよね?と畳み掛けるようにつけ足す。反論を許さないような言い方だった。その迫力にあたしはすっかり気圧されて頷く。東條さんは続けた。

「もっとお互いのことを知ってから、お話をすすめませんか?最近では性格の不一致による夫婦関係の破綻もよく耳にしますし。結婚に対して不都合がないことは既に確認済みですから、焦る必要もないでしょう」

まずい、逃げ口上だ。そう踏んだあたしは慌てて口を開く。

「お互いのことなんて、そんなことはたいした問題だとは思いませんけど。結婚してからだんだん知っていけばいいんだし、性格の不一致だって二人の努力次第で何とかなるんじゃないですか?焦る焦らないじゃなくて、東條さんはお仕事お忙しそうだから、さっさとお話まとめちゃった方が手間が省けるでしょ?第一、不都合がないことはわかったんだからそんな警戒しなくたって良いじゃない!それに…」

一息でそこまで捲し立てた。言葉が雑になっていくが取り繕っている余裕なんかない。早く何か言わなきゃ。必死に次の言葉を探すが、なかなか出てこない。壊れたロボットのように「それに…それに…」と繰り返した挙げ句、


「それに、もし東條さんがこのお見合いを蹴ったら、祖母が絶対に許さないと思います」


かなり的外れでしかも脅迫的な台詞が飛び出した。

決定的な断りの文句を叩きつけられる前にどうにかしなきゃ、と思ううち、ついそんなことを口走ってしまった。なんでいきなりそんなこと。しかも祖母が許さないって、だから何?って思われる。
しまったと思ったが、もう遅い。口から出てしまったものは取り消せないので、仕方なくひとりで恥じ入る。



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