《MUMEI》

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キテレツなあたしの反駁に彼は一瞬キョトンとして、それから盛大に笑った。

「蹴らないですよ、それは最初に言ったじゃないですか。『異存はない』って」

その答えを聞いて肩の力が一気に抜けた。あぁ良かった。ここで断られたら、祖母にどんなイヤミを言われるか。想像するだけで胃が痛くなる。

東條さんはひとしきり笑ったあと、優しさで目元を滲ませて続けた。

「縁談は喜んでお受けします、けど、お受けする前にちょっと『時間』が欲しい、というお願いです」

「お互いを理解し合うための、ですね?」

要求している『時間』の補足をすると、東條さんは深々と頷いた。

「期間は1週間、二人でシュミレーションしてみませんか?」

「シュミレーション?」

怪訝そうに繰り返すと、東條さんはスラッとした中指で眼鏡の位置をただした。

「明日から1週間、恋人として過ごしましょう。それを通じてお互いの癖や性格を分析する。それを踏まえて来週の月曜日に、最終的な結論を出す」

どうですか?と尋ねられ、あたしは狼狽した。
恋人として過ごす?シュミレーション?性格を分析?何だか面倒くさいし、胡散くさい。
反発の意味を込めて黙ったままでいると、東條さんは笑った。

「恋人といっても、変なことは強要しません。あくまでもお互いを知るというのが目的です。そんなに警戒しないでください」

心の内側を見透かされたように、そうつけ足した。

「えぇと、それは…」

「シュミレーションを始めて、途中で無理を感じたらもちろん辞めても構いません。茉奈美さん次第で決めて結構です」

まだ返事に困っていると、東條さんはサラリとそんなことを進言する。
あえて逃げ道を作ってくれた細やかさは少しツボだった。

「どうしますか?」

「…そう、ですね」

ままよ。

「わかりました。1週間、よろしくお願いします」

ペコリと頭を下げてから東條さんを見上げると、レンズの向こう側から優しい瞳がこちらを見つめていた。
満足そうな彼の笑顔を目の当たりにして、見てくれよりもずっと、実は押しが強いということに、このとき初めて気がついた。


全てあたしの思惑通り、というには若干の疑問が残るようなこのお見合いはこうして幕を閉じ、思いがけず新たな局面を迎えることとなった。



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