《MUMEI》

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写真にはどこかのオフィスの風景が写し出されていた。整然と並べられているデスクとそこで仕事をしているだろう人々。

その中央に、男の人がいた。あたしと同い年、もしくは少し上だろうか。まさに働き盛りといった感じの若い男だった。黒いセルフレームの眼鏡が知的な印象を与える。
彼は電話の受話器を耳に当てながら、器用にパソコンを操っているようだ。もちろん彼の視線は目の前のパソコンへ注がれているワケで、カメラに気づいている様子はない。隠し撮りなのだろう。

さらに写真のピントが彼に合っていることから、被写体はこの人なのだろうと思った。

あたしは写真から目を逸らし、それから祖母の顔を見る。

「…だれ、この人?」

あたしの質問を、待ってましたと言わんばかりに祖母は満面の笑みを浮かべた。

「素敵な方でしょう?穏やかそうで優しそうで、しかも真面目」

「いや、そういうことを聞いたんじゃなくて」

「背も高いのよ、あぁ写真じゃわからないわね…でも顔立ちも整ってるでしょう?眼鏡を取ったら雰囲気がガラッと変わるわよ、きっと」

「あのー、だからそうではなく」

「一人暮らしが長かったらしいから、家事は一通り出来るのですって。相手としては申し分がないでしょう?」

「えぇっと、シカトはいい加減に…」

ぼやいた途中で気がつく。『相手』。『相手』っていうのはなんのことだろう?

あたしは祖母に呼びかけた。


「この人は、だれなの?」


不安そうに尋ねると、祖母はにっこり笑った。聖母のように一点の曇りもない笑顔だ。途端に背筋が寒くなる―――なんかすっごくイヤな予感がするぞ、オイ。

思いっきり警戒しているわたしに、祖母は笑顔を崩さず、言った。



「あなたのお見合い相手よ」



いきなり突きつけられた言葉は、かなり唐突に聞こえた。



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