《MUMEI》

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祖母はかぶりを振って、やれやれと言わんばかりにため息をつく。

「このままじゃあなたは絶対ダメになる。貰い手も逃げていくような経歴の娘になってしまうその前に、わたしが何とかしてあげなきゃと思ってね」

そう言ってから祖母は写真の男の人について簡単に説明した。あたしより2つ歳上で、父の取引先の課長さんであること。仕事の件で彼が家を訪ねてきたとき、祖母がその人柄をいたく気に入ったこと。真面目で責任感が強いから、だらしがないあたしを安心して任せられると思いついたこと。

「こんなに出来た人は、探してもなかなかいないわよ。わたしに感謝するのね」

「感謝も何も、ここまできたら単なるはた迷惑なお節介…」

つい口をついて出た言葉に、祖母は金切り声で、お黙りッ!と叫んだ。

「反論は許しません!先方にはもうお話はしているの!!今度の月曜日にお会いする約束をしてますから、そのつもりでね!」

雷のような怒鳴り声に思わず目をつむった。怒った祖母はとにかく怖い。

裕福な資産家の娘として産まれワガママ放題で育った、というのは母から聞いた。小さい頃から欲しいものは苦労もせず何でも与えられたので、我慢という言葉を知らないらしい。
さらにそこへ、戦後の混乱期に女手ひとつで子供たちを真っ当に育て上げたという自信と図々しさがプラスされるのでますます救われない。

しかも一旦ヘソを曲げてしまった祖母の機嫌をとるのはなかなか骨なのだ。おかげで、一家の大黒柱であり、普段は会社で偉そうに部下達をコキ遣っている父でさえ祖母には逆らえない。そこには父が婿養子であるという理由も込みだが。

怯えて返事が出来ないあたしをよそに、祖母は肩を怒らせてリビングから出て行ってしまった。



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