《MUMEI》

 「じゃ、此処まででいいな」
あの直後
少し休めとの言葉通り、フォンスはアンディーノを自宅で少し眠らせた後
アンディーノ宅へと連れ帰ってきた
その事へ礼を言って返せば
「これから坊ちゃんに散々説教されるんだろうからな。これ位はサービスしてやる」
後ろ手に手を振りながら、フォンスはその場を後にする
ソレを暫く見送った後、アンディーノは自宅の戸を開けた
「ただいま」
入って見れば中は真っ暗で
居ないのかと辺りを見回しながら明かりをつければ
食事の支度が整えてある食卓
そこに腕を枕に突っ伏して寝入っているラティの姿があった
「……昼飯が、夕飯になってもうたな」
昼食にと用意してくれていただろうそれはすっかり冷めてしまっていて
アンディーノは苦笑に肩を揺らし皿を一皿ずつ覗いていく
畑で育てられた野菜で作られたメニューの数々
その中の一つをつまみ食いした
次の瞬間
寝ていたラティの眼がゆるり覚めて行った
「ただいま。メシ、勝手に食うてるよ」
事後承諾だが一応は伝え
ラティの向かいへと腰を降ろすと本格的に食べ始める
「今日も大量やったんなぁ」
サラダディッシュに山の様に盛られたサラダ
取り分けてやり、アンディーノは自身のソレにドレッシングをかけ一口
ラティはその様を唯何を言う事もなく唯眺め見る
「ラティ?」
その視線に気付き、どうしたのかをアンディーノが問うてやれば
不意に、ラティの手がアンディーノの頬へと触れてくる
「……気ィ付いた?」
「……そんな目立つ所に傷作っといて気付くなって方が無理あるだろ」
一体何をしていたのかを問われ
アンディーノがつい口籠ってしまえば
「……危ねぇ事してんじゃねぇよ。バーカ」
理由を聞くより先に、ラティがアンディーノの身体を抱く
小刻みに震えるその細い腕に
事の荒方を理解しているのだという事に気付く
「もう、恐がらんでええよ。片、付いたから」
「……そうかよ」
「オッさん、すっごい頑張ってんけど、褒めてくれへんの?」
「……ガキかよ。テメェは」
その言葉通り、子供の様に拗ねた顔をして見せれば
ラティは漸く顔を上げる
何とか浮かべた笑みをアンディーノへと向けると、改めて腕に抱いてやっていた
「……子供なんはお互い様やん」
しっかりとしがみ付き、離れようとしないラティへ
その事を指摘してやれば
何を思ったのか、アンディーノの手を引き寝室へと引き摺って行く
ベッドへと引き倒されたかと思えば、頭上から布団が降ってきた
「ラ、ラティ?」
「今日は寝ろ」
「け、けどまだ時間早いし……」
「いいから!怪我人はさっさと寝ろ!」
布団の上から更に押さえ付けられ
だが身体の方は疲労に正直だったらしく
横になってしまえば、途端に瞼が重く降りてきてしまっていた
その眠気に今は取り敢えず身を委ねる事にし
「……ほな、オッさん寝るわ。おやすみ」
「おやす――!」
言葉も終わると同時
ラティの腕を掴み、布団の中へと引きずり込んでいた
「テメェ、何にして――!」
「ええやん。たまには昔みたいに一緒に寝ようや」
にがすまいと強く抱き込んでやり
子供の時と同じ様に背をゆるり叩き始めれば
暫くしてあくびの音が聞こえてくる
「……今日、だけだからな」
「はいはい。ほな、おやすみ」
互いに互いのあくびをすぐ近くに聞きながら
食事の後片付けもしないままに二人はそのまま寝に入ってしまったのだった……

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