《MUMEI》
神の歌声
                彼女が初めて夢中になったのはバンドだった。
 幼い頃から母親に振り回されて、大好きだった親友と別れた。そして今この場所に居る。
 名前は北条理奈といった。   理奈は幼い頃から自分の自由がなかったためにいつも孤独だった。母親は基本的に理奈に対して優しかったが彼女はその優しさを真正面から受けとる事ができなかった。
 幼稚園でも、小学校でも、中学校でも、高校でも誰かが理奈の隣に居たことはなかった。
 もちろんいじめを受けていた訳ではなかった。
 それは理奈が持った、才能のお陰だった。理奈の才能とはその歌声。
 中学校一年生の文化祭のライブハウス。クラスがその係をやることになる。そこで、このクラスからも一人ステージに上がって歌う事になった。
 しかし、希望者がおらず担任が上手くいかないくてもいいからと無理矢理でもやらせようとしていたのだが、結局希望者は現れる事はなく、くじ引きということになった。
 理奈は不安だった。自分がもし、そのくじを引いてしまっら皆にどう見られるのかと。
 彼女の引いたくじは・・・。
 ほっとしたように理奈は席に着いた。しかし、そのくじを引いてしまった女子生徒がどうしても自分はやりたくない、と泣き出し
た。
 理奈はイライラしていた。
 「ねぇ、そのくじあなたが引いたんでしょ?あなたが今やりたくないっていてるように、誰もがそんな気持ちなの。そのくじの通りよ。私は早くこんなことおわらせたいの。わあわあうるさく泣いてないでクラスが決めたんだからやってよ。」
 クラスのリーダー的存在の女子生徒がそういってくれた。それは理奈が言いたかった事をそのまま言ってくれたようなものだった。 「私がやります。」 
 理奈は怖かった。いつか自分にもその被害が及ぶことがどうしても嫌だった。
 「私、やりたいです。クラスのために頑張ります。精一杯歌います。だから見ていてください。こんな私でもいいなら。」
 くじを引いた女子生徒が理奈を見た。
 「ほんとうに、やってくれるの?」
 リーダー的女子生徒は不満気のようだった。それと同時に理奈の心の中に後悔が生まれた。
 
 文化祭初日。ライブハウスは満席だった。彼女のステージは始まろうとしていた。
 皆は理奈に期待をしてはいない。そう思っていた。
 しかし、歓声は凄く。
 理奈の歌声がライブハウスに響いた。
 
 文化祭、人気ランキング一位。それは理奈のギターとその歌声だった。            理奈の歌声は神の歌声と、話題を呼んだ。
 だから理奈をいじめる奴なんて誰もいなかった。いつだって理奈は皆から一目置かれた存在だったから。
 

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