《MUMEI》
真夜中の路地で
 拓哉の誕生日会の後、未来は一人で歩いて家に帰ろうとしていた。夜は遅く、一人で帰るのは危ないと心配してくれた皆を押しきって未来は自分は皆とは違う方向だからと言ってそれを断った。 歩き始めて数分経ったところで普段人気の少なく、電灯も消えかっかっている静かな路地へと入った。
 さすがに、ここは未来自身、気をつけて行こうと心を構えていたのだが、その場を見ると恐怖感が倍になる。さっきまでのんきにスキップまでしていた自分がこんなにも小さくなってしまうなんて、未来は信じられなかった。
 しばらく歩いていると自転車のペダルの音が聞こえてきた。その音を確認すると未来は安心した。
 しかし、次の瞬間。
 未来が右手に持っていた鞄が一瞬に消えたのだ。混乱し、前を見てみると先程の自転車が未来の鞄を抱え、走っていた。
 ひったくりだ、と未来は思った。
 「こら~!私の鞄返して~。」
 未来は後を必死で追いかけた。これと言った貴重品は入っていないものの、母親からの誕生日プレゼントの鞄だった。
 未来は必死で追いかけたのだが自転車を見失った。これは警察に通報しなくては、と思い110番を押した。
 「もしもし。あの自転車に乗った人に私の鞄とられたんですっ。早く来てくださいよ。えっ!どんな人だったか?多分男でした。いや、男です。断言します。」
 その時、前から走って来る男が見えた。未来に向かってその男は何か言っているようだった。
 「おーい。」
 そういっているようだった。
 この男は自分を追いかけている。そう思った瞬間、未来は恐怖感が湧いてきた。
 未来は逃げた。
 よくみると、その男はさっき盗まれたはずの彼女の鞄を持っている。これはきっと鞄だけに及ばず、自分を誘拐するのではないか、と未来は思った。
 一生懸命逃げた。それなのにやはり男だけあって足が速い。どんどんと男との距離は近づいて来る。
 「おーい。待てよ〜!」
 声がだんだん、はっきりしてきた。
 「何が待てよ、なのっ!絶対私はあんたの言うことなんか聞かないんだから、べーだっ!」
 未来はその男に向かって舌を出した。しかし、彼女はよそ見をしていたために目の前の段差に気づかず、誤って転倒した。男はそれをみて、また未来の方へきた。
 未来は身の危険を感じた。
 男は未来の腕を掴んだ。彼女はそれを精一杯、振り払おうとしているのにも関わらず、その手を離そうとはしない。しかも何か言っているようだった。
 「大丈夫?落ち着けよ。俺、危なくないから。」
 はあ?と未来は思ってその顔を見た。男の肩に盗まれたはずの彼女の鞄がある。
 「こっち向いてくれた。大丈夫?怪我はないの?」
 彼は鞄を盗んだ人物でないことを彼女は直感できるほど、彼は優しかった。
 「ごめんなさい。大丈夫ですから。」
 「鞄とられたんだ。中身は平気だと思うけど、一応確認して見て。」
 彼はそういってから未来に鞄を差し出した。彼女はまた少し不安になった。もしかしたら、優しい振りをして自分の事をはめているのではないか、と思ったからだ。
 彼女の目は疑いの目をしていた。そして彼から奪い取るように鞄を取った。
 未来は鞄の中身を見た。
 「どうだった?」
 彼は言った。
 「大丈夫です。ありがとうございます。あの〜、もう帰ります。用事があるんです。じゃあ。」
 未来は無理矢理に理由をつけて危ない事にならないうちにとっとと帰ろうとしていた。
 未来が歩き出すと、彼は未来に向かって言った。
 「おい、名前ぐらい聞けよ。」
 未来は驚いて振り返った。
 「はっ?」
 「だから、名前聞いてよ。」
 「なんで?」
 「だって、鞄取り返したじゃん、俺。お礼するのが普通だろう。だから、名前聞いてよっていってるんだよ。」
 彼は表情一つ変えず言った。
 「最初からそれが目当てですか?」
 未来がそう言うと、彼は笑った。
 「早く帰りたいんじゃないの?」
 「名前は?」
 未来は面倒臭そうに聞いた。
 「大塚優っていうよ。」

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