《MUMEI》

 「……うわっ、もう昼やん。流石に寝過ぎとちゃうん?自分」
翌日、目を覚まして見れば朝を通り越してすっかり昼を過ぎていた
その事にバツの悪さを感じ辺りを見回せば
だが家の中に人の気配はなかった
「ラティ?」
台所を覗いて見てもその姿はなく
何所へ行ったのか、更に家の中を探して回れば
「……畑か?」
部屋の隅に置いていた筈の収穫用の籠が無くなっている事に気付き
ラティが畑へと出掛けて行ったであろう事を理解した
ソコヘとアンディーノも出向いて見れば
真っ赤に熟したトマト畑の中
座り込んで作業するラティの姿があって
成長したその後姿を感慨深げに暫く眺め
そして足音を潜ませ近付いてやると、背後から抱きすくめてやる
「ディ、ディノ!?」
「今日も大量やん。帰って飯にしようや」
突然のソレに驚いたらしいラティへ
肩に顎をのせ、耳元で何度も急かす様に言ってやれば
僅かに笑ったらしく、肩が揺れたのが知れた
「何?」
「お前って、メシの事ばっか考えてんだな」
「そか?けど、それ手生きるって事の基本やん?」
「……基本、ね」
アンディーノのソレに、確かにそうかもしれないとラティはまた肩を揺らしながら
向かい合う様に身体の向きを態々変えると
収穫したての野菜を差し出してきた
「だったらこれでサラダ作れ」
「は?」
突然の申し出
昨日、山盛りのソレを食べたばかりだと指摘してやれば
「別に、毎日食ったっていいだろ。いいから、作って食わせろよ」
負手腐った様な表情でそっぽを向いてしまう
その横顔は幼い頃のそれと全く変わらず
だが、野菜を嫌いだと言っていたあの頃からしてみれば
随分と成長したものだと顔が無意識に綻んでしまう
「何だよ、笑うな!!」
「ごめんって。けど、オッさん嬉しいわ。ラティがそんな野菜好きになってくれて」
「べ、別にそんなじゃ……」
「オッさん、腕に寄りをかけたる。今日は野菜のフルコースやで!」
そんな宣言を高々とし、野菜収穫に勤しむアンディーノ
野菜を食べたい
たったそれだけを言っただけだというのに
これ程までに喜べるのだから不思議なモノだ
「……一緒に居るのは、損得を考えたからじゃない、か」
嘗てのサラの言葉を思い出し
今になってそれが何となくだが分かる様な気がした
「……ま、あいつが作った野菜は嫌いじゃないし。いいか」
未だ支えられている部分が多いが、これから支えていける様になればいい、と
子供の様にはしゃぐ大人を眺め見ながら改めてそう思う
「って!怪我人のくせにそんなはしゃいでんじゃねぇよ、馬鹿!」
収穫用の籠を背負い、本格的な作業に入ろうとしていたアンディーノを止めてやりながら
ラティは密かに笑みを浮かべて見せたのだった……

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