《MUMEI》

.


午後になっても、サロンは取り立てて忙しくなることもなく、あたしは夕方6時の、定時で店を後にした。

東條さんとは地元駅の改札前で、7時に待ち合わせをしている。
レイトショーなので、先に軽く何か食べてから映画館へ向かう、というプランだ。

バイト先から駅までは結構近く、ゆっくり歩いても10分少々。どんなにのんびりしても、余裕で間に合う距離だ。

待ち合わせ場所へ向かいながらあたしは携帯をチェックした。いつの間にかメールが一件届いている。東條さんからだった。



************



from:東條 匡臣
sub :時間変更のお願い

------------------------

お疲れさまです。
もう駅に向かっていますか?

こちらは仕事が押していて、少し遅れてしまいそうです。

申し訳ないのですが、約束の時間を19時半に変更させてください。

よろしくお願いいたします。



************



あまり見慣れない、堅苦しい文面が飛び込んできたので、ちょっと狼狽えた。恋人らしい甘ったるいものは一切感じさせない。まるで業務連絡みたいだ。あたしのバイト先の人でさえ、もっと砕けた感じのメールでやり取りしているというのに。何だか落ち着かない。
取り合えず、了解した旨の返信メールを送りながら、様々な思いがあたしの頭の中を巡る。


…ていうか、恋人シュミレーションの初日に、しかも初デートの待ち合わせだっていうのにこんな仕事モードのメールってどうなんだろう?もうちょっとフランクに出来ないの?そもそも向こうからシュミレーションなんていう面倒な提案をしてきたくせに、これはちょっとあまりにモチベーション低すぎない?


今日会ったらまず最初に、『もっと恋人らしくメールしてください』ってクレームを入れてやろうと心に決めて、メールがちゃんと送信したことを確認してからバッグの中に携帯をしまいこんだ。



.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫