《MUMEI》 . 二人で見た映画は、有名なフランスの映画祭でご立派な大賞を受賞したという話題作だったが、頭の悪いあたしには何がそんなに素晴らしいのか、イマイチ理解できないような難しいストーリーだった。何度アクビを噛み殺したかわからない。 映画を見終えると、あたし達はイタリアンレストランに向かい、遅いディナーをとった。何でもそのレストランは東條さんが仕事の接待などでよく利用するお店で、クチコミでも評判が良いらしい。その話通り料理はとても美味しく、あたしはさっき見た映画よりもレストランの方に大満足だった。 レストランを出た頃には随分時間も遅くなっていて、心配した東條さんはあたしを車で家まで送ると申し出てくれた。あたしはありがたくその申し出を受けることにし、さっさと彼の車に乗り込んだ。 ちなみに東條さんの車はメタリックシルバーのアウディで、そのチョイスはちょっとオヤジ臭いな、と思ってしまったのは自分の心の中だけに留めておく。 「茉奈美さんのお宅に駐車しても良いですか?帰る前にご挨拶をしたいので」 自宅前に到着したとき、東條さんがそう言った。あたしの家のガレージは3台分の駐車スペースがあり、父と母が所有する車が一台ずつある。空いているスペースに勝手に駐車しても問題はない。 「どうぞ、大丈夫だと思います」 「ありがとうございます、先に降りてもらえますか?」 促されあたしは車から降りた。東條さんがスムーズに車庫入れする様をぼんやり見つめていたとき、 「あれ?茉奈ちゃん?」 背後から間の抜けた声が闇夜に響いた。 振り返ってみると、そこに思いがけない人が立っている。 「松永さん!」 不測の事態につい素頓狂な声を出してしまった。コンビニのビニール袋を下げた松永さんが意外そうな顔であたしを見つめていた。 . 前へ |次へ |
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