《MUMEI》

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それでも好きな気持ちは止められなかった。そしてきっと、松永さんもあの頃は同じような気持ちだったと信じている。だってあたしの前では子供や奥さんの話を絶対にしなかったから。あたしと同等の想いではなくても、間違いなく好感を抱いてくれていたはずだと思うのは、はたして不遜だろうか。


そして、


全てのきっかけは、去年の忘年会だった。


スタッフ総出で夜のネオン街へと繰り出し、まさに文字通り酒を浴びるほど飲んだ。まとめ役の店長もこの日ばかりはタガが外れたのかおおいに酔っ払っていて、制御する人間がいなくなったその飲み会は、盛り上がるだけ盛り上がってそこから一向に戻ってくる気配はなかった。

そのうち夜が更けるごとに、サロンで噂のカップル達が一組また一組と、煙のように消えていった。居酒屋を出たところでもうとっくに終電はなくなっているので、彼らの行き先は容易に想像がついた。

一方残っているのは泥酔した寂しい独り者ばかりで、あたしは焦った。このまま残ればあたしは『恋人のいないかわいそうな女』のレッテルを貼られることは間違いなしで、さらに下手したらこの酔っ払いどもの面倒を最後まで見なければならなくなってしまう。それだけは勘弁つかまつる。

どうにかこの状況から上手く逃げる手だてを考えなきゃ。回転の悪い頭をフル稼働させて、悶々と考え込んでいたときだった。

「俺らも抜けようか?」

ひっそりと声をかけてきたのは松永さんだった。そう言われるまで彼がこの場に残っていたことに気づかなかった。咄嗟のことに思考がついていかず、石のように固まってしまう。

あたしの返事を聞くより早く、彼はあたしの腕を取って酔っ払いどもを残して店から出た。



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