《MUMEI》

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半ば引きずられるように夜の街を歩いた。冬の木枯らしがあたし達に吹きつける。それでも寒いと感じなかったのは酒のせいか、それとも繋いだ手と手の温もりのおかげか。絡めた指が生々しくお互いの熱を伝えあっているのがわかった。



彼が既婚者で妻があり、子供がいて帰る場所があるということは、結局のところ何の障害にもならなかった。酔っ払った勢いだったのかもしれないし、精神的にまだ子供だったからかもしれない。


あたし達はそのままラブホテルへ向かった。はっきり口に出して示し合わせたわけではなかったが、それが自然な成り行きであるのだと、自分でも不思議なほどすんなり受け入れることができた。

抱き合っている間も、会話はなかった。名前を呼び合うことすらしなかった。
あの夜のあたし達の間に言葉はいらなかった。全身で彼を感じ、あたしを感じてもらえる。冷えきった身体をきつく抱きしめ合いながら、それ以外のものなんて必要と思わなかった。

夜が明けきる前に、どちらからともなく身支度をはじめ、ホテルをあとにした。2、3言葉を交わして、あたし達はそのままお互いの家へと帰っていった。


松永さんとあたしが不義を働いたのは、その日限りだ。


年越しのときも、年が明けても彼から何の連絡もなかった。彼は家族と一緒にいるから当然と言えば当然なのだが、彼の揺るぎない幸せな家庭の様子を思い浮かべるとやっぱりへこんだ。



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