《MUMEI》

「……わしは疲れてしもうた。屍は欲しいがこの老体にはちとせんない」
未だに花を食み、口の周りをその色に染めながら話す老婆
漸く食べる事から口を離し、唇の周りを舐めまわしながら
徐々に井原へとにじり寄っていく
「儂の死に体におなり。お前は良い血の臭いがする」
その距離が互いに無くなるほど近づいた
次の瞬間
「……これは、私の死に体。私が、壊すの」
少女が老婆と井原を隔てるかの様に間へと現れ
以前、井原へとして見せた様に、刃物を老婆へと突き付けた
「お前にこの男が扱い切れるとは思えんがのう」
「……私は、この男を使役したい訳じゃない。唯、壊したいだけ」
「ほう。お前が珍しい事を言う」
「婆こそ、ヒトに執着するなんて、珍しい」
僅かに驚いた様な表情をしてみせた少女
微々たる変化でしかないが、互いに驚いている様子で
井原は暫く、その不毛なやり取りを眺める事にした
「この男は儂モノとする。お前には他のモノをやろう」
「……嫌」
「珍しく聞きわけが悪いな」
「だって、これは私のモノだもの」
最早当人である井原は蚊帳の外で睨み合いは続き
その様を呆れた様子で眺め見ていた井原はそのまま歩く事を始める
背後に未だ二人の気配を感じながら
だが井原は向いて直る事はせず、そのまま家路へと着いたのだった……

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