《MUMEI》
序章
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俺の一日は決まってふざけた着信から始まる。



7時45分。枕元の携帯が突然鳴り響き、神聖な朝の静寂を乱す。アラームは8時にセットしているので、間違いなく誰かからのメールか電話だ。
寝ぼけまなこで携帯を手繰り寄せディスプレイを見ると、登録されていない番号が表示されている。どうやら電話の方らしい。
回転の鈍い頭のまま、俺は鳴り止まない電話に出た。
もしもし、とこちらから話し始めるその前に、

「わたし、メリーさん。今、あなたの家の前にいるの」

かわいらしい女の子の声で、そうほざいた。
アホらしくなり俺は電話を切る。ふざけんな、ヒトの安眠を邪魔すんなよタコ。心の中で毒づきながら、そのまま枕に突っ伏して8時のアラームがなるまでもうひと眠りした。


ナゾの電話の15分後、セットしたアラームで目覚めて、母親が用意した朝食を食べる。手早く身支度を整えて、学校へ向かう。
家を出る前にまた携帯が鳴るものの、もう時間が無いからシカトを決め込んだ。どうせロクなもんじゃない。


学校にはチャリで通学している。鼻歌を唄いながら呑気にペダルを漕いでいると、背後に良からぬ気配がする。
振り返ってみると、鬼みたいな顔したババアがナタを振り回しながらダッシュで追いかけてくるのが視界に映った。関わると面倒なので取り合えず立ち漕ぎしてスピードアップする。ああいう輩はぶっちぎって逃げるに限るのだ。
ちなみにあのババアのおかげで俺は遅刻したことがない。ババアさまさまである。
そんなことを考えているとあくびが出た。クソ、変な電話のせいで寝不足だ。


ある程度の余裕を以て学校へ着く。始業前の僅かな時間、クラスメイトとふざけていると、再び携帯が鳴り始める。しかし、俺の学校は携帯を持ち込むことを禁止しているので、また無視する。やたらと電話かけんな、先生に携帯バレたらどうする。相手の無神経さに少しイラッとした。


授業中、眠くなってうつらうつらしていると、足元に違和感があった。机の下を覗き込んでみると真っ白な二つの手が俺の足を掴んでいる。ヤメロ、気安く触んな。しがみつくその手を躊躇うことなく足蹴にすると諦めたのか簡単に離してくれた。まったく人騒がせだ。またうとうとして眠る。


昼休み、友達と廊下の窓から外を眺めていると、ガラス越しに女が落ちてきた。一瞬目が合う。しかもナゼか半笑いだ。美人に微笑みかけられたのなら、そこそこまぁ気分は良いがブスは許せん。
ケンカ売ってんのか、クソアマ!と、落下していった女に思わず怒鳴りつけようとしたが、隣にいた友達は女に気づいていないので我慢してやり過ごす。何だかモヤッとしてしまった。


授業をすべて終えて、家に帰る前に何気なく携帯をチェックした。着信履歴が18件もあったので、先生に見つからないようにして一応かけ直してみる。

「わたし、メリーさん。今…」

そこまで聞いて俺は一方的に電話を切った。電話代を無駄にしてしまったことを悔やんだ。



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