《MUMEI》

しかし、なぜか織田は動こうとしない。
気配を探っているのか、じっと佇んだままだ。
早くどこかへ行ってくれ。
そう願ったとき、ふいにケンイチが息を吐き出した。
わずかにフッと音が響く。
ユウゴですら、微かにしか聞こえないほどの空気の震えだ。
しかし、それに気づいたのか織田が動いた。
一、二歩後ろに下がったのだ。
その爪先はユウゴたちの方へ向いている。
速く脈打つ自分の鼓動を耳の奥で聞きながら、ユウゴは彼の足を見つめる。
織田の足がゆっくりと曲がり、社の下を覗き込むような体勢へと変わっていく。
もう、出ていくしかない。
ユウゴは拳を握り、ゴクリと喉を鳴らした。
そしていよいよ織田の顎が見えたその時、どこからか発砲音が響いてきた。
織田の動きがピタリと止まる。
再び数発の発砲音が響いた。
「なんだ、今のは」
織田の低い声に思わず身を固くしたユウゴだったが、どうやら電話しているらしいと気づき、ホッと力を抜く。
電話の相手は興奮しているらしく、社の下までその声が響いてくる。
懸命に聞き取ろうとするが、さすがに言っている内容まではわからない。
「あいつらか?」
織田の声に相手が答える前に、今度は爆発音が響いてきた。
織田は軽く舌打ちすると向きを変え、走って行ってしまった。

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