《MUMEI》
学校風景
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「…素晴らしいっ!」



俺が渡したプリクラを見て、クラスメイトの神林 憂(カンバヤシ ユウ)は感動したようにそう呟いた。しかし誉め称える言葉とは裏腹に、彼女の顔は至って無表情だ。

「こんな素晴らしいものを見たのは初めてよ」

そんな感想を添えてプリクラを俺に突き返す。俺は黙ってそれを受け取り、眺めてみる。

そのプリクラには俺と女が二人で並んで写っている。だからといって女は俺の恋人というわけではない。

プリクラの女は顔の下半分を覆う大きなマスクをつけている。表情はよくわからないが、女の目元が優しく緩んでいるので、たぶん笑っているのだろう。そういえばこのプリクラを撮った時、女はやたら上機嫌だった。きっと撮影直前に渡した飴のおかげだ。プリクラの落書き機能で、『べっこう飴サイコー!』とウキウキしながら書き込んでいたマスク女の姿を思い出した。

憂はアンニュイなため息をもらす。

「羨ましい…わたしも彼女と仲良くなりたいわ」

呟いてから髪の毛を耳にかけた。キレイで儚げな仕草だ。外見だけなら、クラスのみんなが騒ぎ立てるのもわかる気がする。

憂は学校でとても有名人だ。整った顔立ちも去ることながら、長い黒髪と白い肌、線の細い身体つきとパーフェクトな外見を持つ美少女として。しかも、他の乳くさい女子と比べて断然クールでミステリアスとくれば、バカな男どもは黙っていない。
憂のことを狙ってるヤツがこの学校に大勢いると聞いたことがある。が、俺はこんな女は御免こうむる。


―――ヤツラは憂の『本性』を知らないのだ。


彼女の迂闊な発言に、俺はプリクラを財布にしまいながら、やめとけ、と釘を刺す。

「なつかれるのも大変なんだぞ、面倒でかなわん」

マスク女と知り合ったのは数週間前の帰宅途中だった。突然声をかけられたのだが面倒だったので取り合えず殴りつけた。相手の目的は見え見えだったがしかし、言い分も聞かず殴ってしまった罪悪感でヤツの好物であるべっこう飴を恵んでしまった。

それが間違いだった。



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