《MUMEI》
特殊な力
.


小さい頃から俺は特殊な能力を持っている。未知との遭遇というかつまり、いわゆる『見えるはずのないもの』が『見えてしまう』のだ。


―――例えば、

鏡の中から白い手が出てきて引きずり込まれそうになったり(幼稚園時代)、
理科室の人体模型が猛スピードで追いかけてきたり(小学校時代)、
見知らぬ女にクソ重たい赤ん坊を押しつけられそうになったり(中学校時代)。


体験したヤツにしかわからないだろうが、それはもう全く以ていい迷惑である。



『見えてしまう』原因は未だにわからない。憂は俺が住職の息子だからだと言い張っているが、彼女の思い込みで信憑性はないと思う。

俺の父親は寺の住職の3代目だ。もともと霊感が強い方であるらしく、本職の他にしばしば除霊も請け負ってたりしている。
ちなみに父親はその業界ではわりと有名であるらしい、というのは憂から聞いた。素晴らしい除霊師の子供なのだから当然その能力を継いでいる、というのが彼女の持論のようだ。

確かに一理あるかもしれない。しかし、俺には姉がひとりいるのだが、姉は俺みたいに『見えるはずのないもの』に遭遇したことがない。というか、ヤツラがそばにいても全く気づかない。どうやらセンスがないらしい。


小学生だった頃、姉が上機嫌でブランコを漕いでいるその背後に、血塗れの日本刀を手にした落武者が立っているという、何ともシュールなシーンに遭遇したことがあった。

あの時は全て『見えていた』俺が慌てて姉の手を引っ張って落武者から逃げたのだが、当の本人は全くといって危機感がなく、逆に「もっと遊びたかった!」と恩人であるはずの俺を詰った。そのくらい鈍いのだ。


そんな昔話を踏まえて、憂の例の持論を仮定した時、俺と姉は同じ父親の子供なのにこれだけの差が生じる矛盾をどう説明するのか、と彼女に一度質問したことがある。

俺の疑問に憂は少し考えるような顔をして(実際にはほとんど表情は変わらないのだが)、しばらく黙り込んだあと唐突に口を開いた。

「お姉さんはきっと、父親が違うのだわ」

都合が良い突飛すぎるその返事を俺は全面的にシカトした。

そんなわけで、結局のところ真相はわからない…し、別に知りたいとも思わないのが本音である。



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