《MUMEI》

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それはともかくとして、

俺はその『見えるはずのないもの』が嫌いだ。怖いわけではない、ただヤツラに関わるのが面倒なのだ。

基本的にヤツラは空気を読まない。勝手に現れて勝手に消えるので、こっちの都合を考慮することなど一切しない。つまり食事中だろうが睡眠中だろうが、風呂だろうがトイレだろうが四六時中お構い無しなのである。まさにやりたい放題だ。
しかも、まんまと怖がってしまうとここぞとばかり調子にのりやがる。その時のヤツラのドヤ顔ほどムカつくものはない。


まだ幼かった頃は神出鬼没のヤツラにどう対応すればいいのかわからず、ビビったり泣かされたりと一方的にやられっぱなしだったが、場数を踏むうちにヤツラの出没パターンが読めるようになり、さらには適当なあしらい方もだんだんわかってきた。
ヤツラに遭遇した場合、即逃げるかスルーするか、最悪殴り飛ばすかに限る。それらが一番手っ取り早いのである。


そのことを憂に話すと、途端に怒り出した。せっかくの貴重な体験なのに勿体ない!というのだ。

というのも、憂は超常現象や怪奇現象をこよなく愛する、いわゆるオカルトマニアで、「三度の飯より都市伝説が好き」と豪語するほどのツワモノなのだ。

休憩時間の度に気色悪い心霊写真を物憂げに眺めている彼女の心理を正直、俺には理解できない。


しかしながら憂のその『本性』は学校のヤツラには全く知られていない。彼女は極端に他人と関わることを嫌い、基本的にいつもひとりで過ごしていることから、誰ひとりとして彼女の内面的なものに気がつかないのだ。
そのうえ飛び抜けたルックスも相成って彼女の神秘性が増幅し、愚かな男子達から未だに絶大な人気を誇っているワケだ。本当に世界は上手くできている。


誰ともつるまない一匹狼である憂が唯一自ら話しかけてくるのは学校内でも俺に対してだけで、それにはちゃんと理由がある。

もちろん、俺に例の特殊な能力があるためだ。



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