《MUMEI》 神林 憂. 全てのきっかけは、俺の父親だった。 「この人、あなたのお父様なのですって?」 そんな台詞とともに、一冊の雑誌を目の前に叩きつけられた。相手は憂だった。その時まで彼女とは一度も話したことがなかったのにいきなり、しかもかなりぞんざいに声をかけられて、ガラにもなく狼狽えたのを覚えている。 少し戸惑いながら机に置かれた雑誌を確認した。パッと見たところ趣味の悪いオカルト系の雑誌のようだ。 あえて俺に見えるように開いてあるそのページには、日本でも有名な霊媒師や除霊師の特集がされており、中でもある人物の写真が一際大きく取り上げられている。紛れもなく、俺の父親だった。 俺は父親の写真をじっと見つめてから、表情が無い憂の顔を見上げた。 「そうだよ、親父だ」 「間違いないのね?」 詰問するような言い方だったが、俺は取り合えず頷く。 すると、 「お父様に会わせてほしいの」 突拍子もないことを言い出した。しかも無表情で、淡々と。 「…何で?」 素朴な疑問を口にした。単なるクラスメイトの父親にどうして会いたがるのか皆目見当がつかない。 俺の疑問に憂は唄うように答えた。 「ぜひ、お話を伺えたらと思って」 「話?」 何の?と続ける前に、 「除霊の話よ」 迷いなくキッパリと答えた。 話を聞くと、憂は以前から俺の父親のファンであるらしく、除霊にまつわる父親の記事やテレビ番組を全てチェックしているとのことだった。 そして彼女の要望をざっくりまとめると、つまり父親が体験した除霊や怪奇現象の話を生で聞いてみたいというのだ。 「その程度のことで?」 「その程度!?」 俺の呆れた呟きに彼女は眉を僅かに尖らせる。 「あなたは何もわかってない!お父様の体験がどれだけ貴重なものであるか、全然わかってないわ!」 珍しく声を張り上げ反駁してきた。どうやら彼女はそっちのセンスはほとんど無いらしく、背筋も凍るような恐怖体験に未だ遭遇したことがないという。 . 前へ |次へ |
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