《MUMEI》

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俺は用紙を彼女に返しながら、深く息を吐く。

「せっかくだけど遠慮する」

「どうして?」

「ヤツラに関わるのは面倒なんだ。それにこの同好会の設立はムリだよ」

「あら、なぜかしら?」

尋ねてきた憂に、俺は半目で答える。

「クラブ・同好会の設立には最低でも3人のメンバーが必要なんだ。その申請書に書いてある。君と、仮に俺が入るとしても、他にもうひとり参加してくれないとその申請は無効だ」

俺の台詞に憂は用紙に目を落とす。しばらく考え込んだあと、顔をあげた。

「問題ないわ。同じクラスの田中君にも協力してもらうから」

「…俺の記憶が正しければその田中君は、確かシドニーに交換留学中だった気がするけど」

「勝手に申請してしまえばいいわ。どうせ先生は気づかないわよ」

事もなげにそんなことをサラリと口にする。彼女の意外と強情な一面を見た気がした。

それよりも、やたらと周りから視線を感じる。たぶん憂が俺と話しているからだろう。彼女は普段、俺以外の誰とも話をしようとしない。だから彼女が俺と話をしていると、自然と注目されるのだ。

彼女と俺が付き合っているのではないかという噂も一部ある。しかし、俺達といえばこうして二人きりで話をするものの、その表情はいつもブスッとしていて恋人のような甘い雰囲気は皆無であるため、みんな噂を断定することができずにいるようだ。もっともそんな完全に噂はデマなので、俺にとってはいい迷惑なのだが。


憂は周りの視線を気にすることなく(どちらかといえば気づいていない)、そういうワケだから、と話を締めくくる。

「これから申請してくるから、結果は追って連絡するわ。取り合えず本格的な活動は明日の放課後からということでよろしくね」

勝手に話をすすめる彼女に呆れた。

「俺は承諾してないぞ」

一応言っては見たがやはり反論は無視され、それじゃまた明日、と言って彼女は俺の前から立ち去った。

面倒なことになったが、事実上学校に不在の田中君を入れたところで、簡単に申請は受理されないだろうとひとり決め、俺は家路についた。


しかし、甘かったようだ。


その夜、憂から電話があった。彼女にしては珍しく饒舌だった。

「同好会の申請は無事に受理されたわ。田中君のことも不審に思われなかったみたい。部室もあてがわれたの。理解のある学校で本当によかった。ちなみにわたしがリーダーであなたが副リーダーということにしたのだけど、それでよかったかしら?」

晴れやかな彼女の声を聞きながら、俺はため息をついた。



―――そんなワケで、

『怪奇倶楽部』という奇妙な同好会が発足することとなり、図らずも俺はそれに巻き込まれる形になったのだった。



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