《MUMEI》 活動準備. ―――『怪奇倶楽部』創立の記念すべき第一日目。 俺と憂は放課後、校舎の端っこにある小さな部屋にやって来た。『怪奇倶楽部』の部室にと、学校側からあてがわれた場所だ。 もとは準備室か何かだったのだろう。2、3人が事務作業できるような広さがある狭い部屋だった。 薄汚れた壁には書類棚とスチール製の事務机が並べられている。その横に、パイプ椅子が2脚と折り畳み式のテーブルも片付けられていた。 窓際には掃除用具が収められたロッカーがあり、黄ばんだクリーム色のカーテンが窓に取り付けられていた。 しばらく使われていなかったからか、部屋の空気はホコリっぽく、天井の隅には蜘蛛の巣が幾重にも張っている。 部屋の中を見回して憂は、素敵な場所ね…と感慨深そうに呟く。 「『怪奇倶楽部』の部室にはちょうどいいわ」 この薄汚い部屋の何がどう《ちょうどいい》のか俺にはわかりかねるが、取り合えず憂は気に入ったらしくご満悦のようだ。 それから憂はロッカーから箒と雑巾を取り出して部屋の掃除を始めた。手伝おうかとも思ったが、俺は彼女に無理やり付き合わされているワケだし、彼女もそれを要求してこないので声をかけるのをやめた。 憂が箒で床を掃く度に塵が舞い上がって空気が余計に悪くなったので、俺は窓を空けて換気をした。爽やかな風とともに、運動部のかけ声が部屋の中へ入り込んでくる。風が吹く度カーテンが儚く揺れた。少し心地よさを感じる。 窓辺で目を閉じ、ゆっくり深呼吸をしていると、 『何だ、君達はぁっ!?』 微かに不思議な声が聞こえた。音域が高い奇妙な声だ。何だ、何かいるのだろうか。全く気配がなかったので思いきり油断していた俺は驚く。 慌てて部屋を見回すが、そこには憂が掃除している姿があるだけで誰もいない。おかしな気配もやはりない。空耳か。俺はそう思い込むことにした。 簡単に掃除を終えると、憂は道具をロッカーへ戻した。立て付けが悪いのか、ロッカーの扉が上手く閉まらないようで悪戦苦闘していた。彼女は扉を何度も蹴飛ばしている。 ガンガンガンガン!と繰り返し響く喧しい音に眉をひそめていると、 『いてっ!痛いって、ねぇちゃんっ!!うっ!』 また小さな声がどこかから聞こえてきた。空耳ではないことを確信する。しかもやたら苦しそうだ。 『ぶっ!ぎゃっ!や、やめてっ!死ぬっ、死んじゃうっ!』 悲鳴じみた穏やかじゃない雰囲気の声が気になりキョロキョロして出所を確認すると、ある場所でふと目を留めた。憂が蹴り続けている例の掃除用具のロッカーである。 その扉の下の方に、小さい『何か』が蠢いたのを見た。もしかして…。 . 前へ |次へ |
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