《MUMEI》
序章
少女の双眸には色がなかった。ただ物憂げな黒が色濃く、透き通った瞳。

少女は角盥を見つめて、一心に祈っていた。少女には生まれ持った霊力を総動員し、京の都全体に張り巡らせていた。
それでも、力は徒に消耗されるばかりで、彼女の居所を掴めない。出来るのは、せいぜい彼女の声を掻き消してしまうことくらいだ。それも、いつはねのけられてしまうかわからない。

少女は眉根を寄せた。泣きたい気持ちを必死にこらえる。
泣いたら、きっと、挫けてしまう。全てを投げ出したくなる。

「白龍が…隠しているのね。でなければ…」

あんな強烈な光を、私が見逃すはずがない。彼女はこの京のどこかにいるはずなのだから。

「まだ見付からないのかい?千歳」

蓮っ葉な口調の甘ったるい声が響いて、少女の集中力が突然破られた。千歳は弾かれたように振り返った。

「シリン…」

淡い髪を肩に流した白拍子が妻戸に立ち、嘲るように笑っていた。抜けるように白い肌、男装越にも柔らかそうな肢体、妖艶な微笑。時の院すら魅了している、甘い果実。白拍子とは男装の麗人だが、少女の知る限りシリンはその中でも群を抜いている。

「来てたの…」

少女にとっては唯一の味方だ。シリンにとっては、そうでなくても。少女は胸を撫で下ろす。

「白龍が彼女を庇護しているのだわ。白龍を消滅させてしまわない限り、見付けるのは難しいかもしれない…」

「院が武士団に龍神の神子の追討を命じたよ。黒龍の力で見付からなくても、武士団に斬られちまえばおしまいさ。あんたは結界の維持にだけ集中してなよ」

シリンがこともなげに言い放つ。少女はほっと吐息を零した。

「そう…」

「極秘に、らしいけどね」



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