《MUMEI》
同好会活動
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窓から流れてくる柔らかい風がカーテンを小さく揺らす。

狭い部室の中、俺と憂はパイプ椅子に腰かけて向かい合っている。彼女の顔はいつもの通り無表情だが、どこか深刻そうだった。
彼女は少し俯いた。長い黒髪が細い肩を滑り落ちて、その表情を覆い隠す。

「…ママは…」

暗い声でそう呟いた。俺は黙っている。

一瞬の間のあと、


「ママはお前だっ!!」


突然彼女は顔をあげるとこちらの鼻先へ人差し指を突き立て、普段では考えられないほどの大声で叫んだ。物凄い気迫だ。
しかしながらもちろん俺は彼女のママではないので、一切動じずに彼女の様子を静かにじっと窺う。

彼女はしばらく恐ろしい形相のままで俺と向き合っていたが、急に表情を消すと再びゆったりと口を開いた。

「…翌日、コインロッカーの中へ無理やり押し込められているその女の死体が発見されたの。ロッカーの前にはお花が供えてあったらしいわ…もっともそのお花は彼女自身がそこへ持ってきたものだとは誰も知らないけれど…」

オチを語り終え、彼女は満足したようだった。都市伝説でも有名な『コインロッカー』の話である。

以上よ、と彼女は口を閉ざして膝に乗せているノートに何やら書き込んだ。どうやら次は俺の番らしい。面倒だったが俺は口を開いた。

「…ある小学生がひとりで学校のトイレに入ったらその個室の紙が切れていたんだ。予備もなかったんで困っていたらどこかから声が聞こえてきた。『赤い紙欲しいか?青い紙欲しいか?』ってね」

そこまで語ると憂は、知ってるわと話を遮る。

「赤い紙って答えると全身血塗れにされて殺されて、青い紙って答えると全身の血を抜かれて殺されて、どっちも要らないって言ってしまうとやはり殺されてしまうのでしょう?」

他人の話に口出しするのは本来ご法度なのだが、彼女は全く気にしないようだ。俺はため息をついて、そうだよと答える。
すると彼女は不満そうに言った。

「その話はちょっと有名すぎて面白くないわ」

彼女の話も同じようなものだと思うが、反論はやめておくことにし俺は素直に頷く。

「そうだね、でも助かる方法があるんだけどそれは知ってるかい?」

俺の質問に彼女は食いついた。

「知らないわ、教えて?」

身を乗り出してきた彼女を見つめ、俺は答えた。

「新聞紙って答えると助かるんだ」

その解答に憂は思いきり不審そうな目を向けた。

「新聞紙?」

「そう、新聞紙」

「…ウソだわ」

「マジだって」

本当だ。だってこの話は俺が実際に体験したものだから。



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