《MUMEI》

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ナゾの問いかけに対し、当時小学生だった俺は『新聞紙をくれ』と適当に答えた。すると、『そんなもんでケツ拭けるかっ!』と悪態をつかれ、頭上からトイレットペーパーが落ちてきたのだった。これについては意外と親切なヤツだったんだなぁ…と好感を持った記憶がある。確かに新聞紙で後始末をする気にはさすがにならないし、しかもトイレに流せないので厄介だ。

ちなみに憂にはその話は伏せておく。うっかり彼女にそんな体験談を話してしまうと『怪奇倶楽部として検証してみよう』と言い出しかねない。

憂は疑わしげに俺の顔を眺めていたがやがて、もういいわと勝手に切り上げる。手元にあるノートにペンで何か書き込み、顔をあげた。

「次はわたしね。『海ガメのスープ』という話なのだけど知ってる?」

そうして彼女は淡々と『海ガメのスープ』という都市伝説を話し始めた。眠くてあくびが出た。そろそろ帰りたい。


彼女は『海ガメのスープ』を話し終えると、不機嫌そうな顔をした。

「さっきから携帯が鳴ってるわ」

もちろん俺の携帯である。

「知ってるよ、イタズラ電話だ」

「着信拒否にしたらどうかしら?」

「拒否しても違う番号からかかってくるんだ」

それは厄介ね、と憂は呆れたように言い、ノートに何か書き込もうとペンを探したが見つからないようだ。俺は部屋の隅へ視線を流す。そこには、自分の背丈よりも大きな彼女のペンを抱えたちっちゃいおじさんが立っていた。ペンを探している憂の姿を見てほくそ笑んでいる。先日の報復なのだろう。

おかしいわね…と、憂がキョロキョロ探している姿を眺めながら、俺はタイミングを見計らって持ちかけてみた。

「…今日はこの辺で止めないか?」

こんなことを言ったら彼女の機嫌が悪くなるとわかっていたが、もう我慢も限界だった。
案の定彼女は眉をしかめる。

「どうして?」

「どうしてって、こんなの時間のムダだろ?」

「ムダではないわ、立派な同好会の活動よ」

「いやでも、さすがに二人だけで百物語はちょっとキツいんじゃ…」

「そんなことを言っていたらいつまでたっても真相の究明なんてできないわ」

憂はキッパリと言い張る。俺はどっと疲れを感じた。勘弁してくれ。

『怪奇倶楽部』の活動を始めてから3日目にして俺は激しく後悔していた。とにかく憂がヒドイのだ。


『百物語を終えたあと、本当に怪奇現象は起こるのか』


これは今日、憂が突然提案したくだらない企画だ。たぶん思いつきだろう。無茶苦茶すぎる。

まず、メンバーが二人きりなので必然的にひとりにつき50話を語らなければならない。それに、本来なら蝋燭を100本用意しなければならないのだが、場所が校舎内であるためにそれは省かれ、代わりにノートに正の字を書き込んでカウントをしている。憂が話し終える度にノートに書き込んでいるのはそのためだ。
さらに、深夜の時間帯に同好会活動はできないのでまだ日が昇っている時間から行っている始末だ。はっきり言ってグダグダである。
こんな調子では起こるものも起こらない。

ムダだって、と俺はもう一度言った。

「そもそも俺、50コも怖い話知らないし、早く帰ってテレビ見たいし」

「同好会とテレビ、どっちが大切なのよ?」

「テレビだ、間違いない」

「副リーダーとして自覚はないの?」

「仕方ないだろ、事実上メンバーが二人しかいないんだから」

そんなことを言い争っていると、突然部屋のドアが開いたのだった。



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