《MUMEI》 現れた人. 部室のドアを開けたのは、メガネをかけていて背の高い、いかにも幸薄そうな顔をした男子生徒だった。しかも、俺は彼を知っている。 「…工藤君?」 俺は彼の名前を呼んだ。彼―――工藤君はクラスメイトだ。クラスの中でも地味で目立たない人なので俺はあまり関わることはないが、それでも何度か話したことはある。 工藤君は俺と憂の顔を交互に見つめ、困惑したように会釈する。 「ご、ごめん、ノックもしないで急に入って来ちゃって…」 小さな声でそう詫びる。俺は、気にすんなよと声をかけてやった。それで気が楽になったのか、工藤君はおずおず尋ねてきた。 「あの…『怪奇倶楽部』っていう同好会って、ここで良いんだよね?」 俺は頷いた。工藤君は戸惑ったようで、俺が『怪奇倶楽部』のメンバーなのか立て続けに訊いてきた。不本意だが事実なので素直に頷く。 工藤君は意外そうな顔をした。 「まさか灰谷君がメンバーなんて思わなかった…」 「なんで?」 「怖い話とか、そういうのに興味無さそうだし。そもそも文化系より、サッカー部とかバスケ部とか…どっちかっていうとそんなイメージだったからさ」 『そんなイメージ』が具体的にどんなものであるのか理解しかねたが、それを問いただすのも面倒なので、取り合えずわかったフリをして流すことにした。俺は肩を竦めてみせる。 「メンバーになった経緯は別に大したことじゃない。気がついたら入会したことになってただけだ」 そうなんだ…と答えたそれきり、工藤君は口を閉ざした。黙り込みながらも彼はチラチラと視線を憂の方へ時おり向けている。やはり美少女の存在は気になるのだろう。 一方、彼女は涼しげな顔をして黙っている。どうやら工藤君に対してあまり興味がないらしい。 「何か用でもあるの?」 3人で黙り込んでいても仕方がないので、取り合えず工藤君に尋ねてみた。 すると工藤君はちょっと俯いて、いや…と呟いた。 「用っていうか、その…」 言いにくそうにまごまごしている。何かあったのだろうか。 . 前へ |次へ |
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