《MUMEI》

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俺が何か尋ねるその前に、

「ひょっとして入会希望かしら?」

憂がいきなり割り込んで口を出した。しかも極めてトンチンカンなことを。

やめろよ、こんな不気味な同好会に入りたいなんて物好きがいるわけないだろ。

口に出すのと憂が絶対怒るので、心の中でひっそりと念を送るがしかしあっさり無視された。

「ここにクラスと名前を書いて。ちなみに現メンバーはリーダーであるわたしと、副リーダーの灰谷君、そして書記の田中君の3人よ。ちなみに田中君は今シドニーに留学中だから、あなたは書記代理になってしまうのだけれど良いかしら?」

憂は百物語のカウントに使っていたノートを広げて工藤君に渡し、ペラペラと勝手に暴走し始めた。思わず目眩がする。

クラスメイトに対して『クラスと名前を書いて』ってどんだけ失礼なんだよ。しかも田中君はいつの間に書記になったんだ、知らなかった。つーかそもそも書記っていうポジションは必要なのか。

案の定、工藤君は戸惑っていた。いや、そうじゃなくて…と小声で訴えるが、それが憂に届くはずもない。
彼女は彼をほったらかして、しきりに床を見回し、困ったわね…と呟いていた。

「やっぱりペンがないわ…どこに落としたのかしら」

ちっちゃいおじさんが隠したペンを探している。おじさんは憂の背後の方で彼女のペンをバラバラにし、中に入っていたスプリングを使って南京玉すだれのように両手で掲げて遊んでいた。あの様子ではバネが完全に伸びきってしまっているだろう。

俺は憂に声をかける。

「ペンはもう諦めた方がいい」

そう言うと彼女は、そうねとあっさり頷いた。

「きっと忘れた頃に見つかるでしょう」

見つかるかもしれないが、たぶん二度と使えないだろう。と思ったのは秘密にしておく。俺は、そうだねと流し、続ける。

「それに工藤君は入会希望ではないから、ノートに書いてもらう必要はないだろ?」

俺の言葉に憂はおののく。

「そうなのっ?」

俺は冷静に頷いた。

「さっきから工藤君が違うって言ってるけど、君はペン探しに夢中で気づいてなかったから」

ね?と工藤君に話を投げると、彼はブンブン!と首を縦に激しく振った。

「灰谷君の言った通り、僕は入会を希望しているワケではなくてっ…」

憂は工藤君をギロリと睨む。

「じゃあ、一体何の用なのっ!?」

彼女の剣幕に怯え、工藤君は、ごめんなさい!すみません!とコメツキバッタのごとく頭を下げ続けた。可哀想になってくる。

俺は二人の間に入り、憂をなだめつつ工藤君に向き直った。

「…それで、何かあったんだろ?」

促してやると工藤君はハッとして俺の顔を見た。

そして暗い顔で歯切れ悪く呟くのだ。


「その、何て言うか…ちょっと相談、したいことがあって…」


何だか深刻な悩みを抱えているらしい。

聞くだけなら、と断ってから俺は彼に椅子をすすめた。ただ事ではなさそうだ。何やら嫌な予感がする。彼の顔色があまりにひどかったから。



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