《MUMEI》
相談
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狭い部室の中で、俺と憂そして工藤君は向かい合うような形でパイプ椅子に腰かけていた。

先ほどの憂と工藤君の入会希望の有無のやり取りもあり、3人の間には不穏な空気が漂っている。誰も口を開こうとしない。

「さっきから気になっていたんだけど…」

意外にもこの沈黙を破ったのは工藤君だった。

どうした?と聞いてやると、彼は申し訳なさそうな顔をする。

「灰谷君の携帯がずっと鳴ってるような気がするんだけど、出なくてもいいのかな?」

アイツからの電話だ。さっきから、というよりほぼ一日中鳴りっぱなしだ。

気にしないでくれ、と俺が答えようとしたら、

「ただのイタズラよ。いつものことだから構わなくていいわ」

隣にいる憂が淡々と言った。なぜお前が我が物顔で答える。納得いかないがここで口答えをするのは大人げないし面倒くさい。

「…ところで相談ていうのは?」

俺から話を切り出すと、工藤君はサッと表情を強張らせる。
少し考えるような顔つきで黙ったあと小さな声で言った。

「実は…嫌がらせ、みたいなことをされていて…」

嫌がらせ?と繰り返すと彼はこくんと頷いた。そうしてポツリポツリと話し始める。

1ヶ月ほど前から彼は執拗な嫌がらせをされているという。その内容は、外出時にしつこく後をつけ回されたり、自宅に不気味な御札が送られてきたり、彼の下駄箱に釘が刺さった人形が入れられていたりと極めて悪質なものだ。
そのせいか近頃は身体の具合も思わしくなく、精神的に相当参っているらしい。

「犯人は誰かわかってるのか?」

尋ねると彼は力強く頷いた。そうして憎しみを込めた声で呟く。

「…隣のクラスの沢井っていうヤツだよ」

隣のクラスの沢井。俺は記憶を掘り起こす。確か女子生徒だった気がする。
物静かで目立たない印象の、どちらかというと大人しいイメージだったので、まさか誰かに嫌がらせなどするような人には思えないのだが。

間違いないのか?と聞くと、工藤君は忌々しそうに答えた。

「先週、廊下でばったり沢井と会った時…いきなり僕にこう言ってきた。『このままだともっと大変なことになるわよ』って…その時ピンときたんだ。あの気味の悪いものを送りつけてるのはこいつだってね」

吐き出すような彼の声音は、沢井のことを心底憎んでいるようだった。メガネのレンズ越しに見える瞳は闇のようにとても暗い。


この雰囲気はちょっと尋常じゃない。


何となくそう感じた俺は隣の憂に目配せをする。が、彼女は工藤君に興味を一切なくしたようで在らぬ方を見つめていた。どうやら先ほどの工藤君とのひと悶着をまだ根に持っているらしい。



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