《MUMEI》

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ため息をつき、気を取り直して俺は工藤君を見た。

「…その沢井ってヤツに嫌がらせされるような心当たりはあるの?」

これが一番重要な問いだと思う。彼の返答によっては嫌がらせされても致し方ないと判断するかもしれないからだ。

俺の質問に工藤君は苦しそうな顔をして、思いがけないことを口にした。


「たぶん、僕の彼女が原因だと思う」


あまりにも意外すぎて、うっかり聞き流しそうになった。
俺は工藤君の顔をじっと見つめてから、口を開く。

「えっと、彼女って…付き合ってる人がいるってことかな?」

「うん、レイコっていうんだ」

「あ、そう。なるほどね」

何が『なるほど』なのか自分でもわからないが、びっくりしてちょっと気が動転していた。

いや、まさかね。工藤君に彼女がいるなんて想像してなくてね。バカにしてるわけじゃないんだけど、彼女持ちには見えなかったからさ。別に工藤君より俺の方がモテるのにそれは納得いかないとか思ったワケではないんだ。

そんなことを自分自身に言い聞かせとにかく気持ちを落ち着かせて、俺は、それで?と続けた。

「沢井からの嫌がらせの原因が工藤君の彼女っていう、その意味がよくわからないんだけど」

素朴な疑問を尋ねると、工藤君は困ったような顔をする。

「どうやら沢井に一方的に好かれてるみたいで…俺とレイコ…彼女を別れさせようとしてるんだと思う」

「沢井が君のことを?」

また何だか釈然としない。いや、モテそうもないのになぜかモテるらしい工藤君に納得いかないだけではなくて。

「沢井から直接そう言われたの?」

続けざま訊くと工藤君は首を横に振った。

「そうじゃないけど、アイツから送られてきたものをレイコが見て『わたしのせいだ…』って落ち込んでいたから…もしかしたら僕たちに嫉妬してるんじゃないかと思ったんだ」

「嫉妬ねぇ…」

俺は背もたれに寄りかかって天井を見上げた。ただ聞いているだけだと犬も食わないような話に思えるが、何かがおかしい気がする。

俺が黙り込んでいると、憂が口を挟んだ。

「つまり、工藤君は沢井さんていう人からストーキングされて困っているということね?」

きれいに話をまとめた。彼女の唐突な発言に工藤君は面食らいながらも頷く。憂は少し不機嫌そうに続けた。

「そういう相談ならわたし達『怪奇倶楽部』にではなく、警察にするべきよ」

彼女にしてはもっともな意見だ。その点に関しては俺も反論はないので黙っていた。



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