《MUMEI》

―10分後

「ほら、可愛いっ!」

「あの、一応中2ですからね…。」

まぁ、こんな感じで、いつもアニマル柄のパジャマを着させられるのだ。
だけど、歌音さんのお陰で私は、いつも病院生活を頑張れている。
だから、歌音さんには心から感謝している。……のだけれど、そんなこと言ったら歌音さん…上機嫌になって、アニマル柄のパジャマをたくさん買ってきそうなので、言わないでおく…。

「でも、歌音さん…アニマル柄のパジャマ何枚持ってるんですか?」

「え?えぇっとぉ、………10…17…あ、ねこさんと…それから…だから、にじゅう…」

あ、……すみません。
聞いたのが、バカでした……。
でも、そんなに動物っているんだ……。
なんか、すごい…。

「あ、うわぁっ…!!」

「うふふ、ほら行きましょ♪」

「か、歌音さん〜、いきなり引っ張らないでくださぁ〜
あぁぁぁぁ〜!!」

私は、歌音さんに引っ張られながら病室の裏庭へ行くことになった。
裏庭に着くと、歌音さんは歌を歌い始めた。


「歩こう〜歩こう〜わたしは〜元気〜♪」

私の手をブンブン、揺らしながら歩くので私は少し戸惑う。

「歌音さんって、なんか親近感ありますよね。」

「〜〜〜♪んー?そう?あはは、ありがと〜♪」

私は、歌音さんの顔を一度も見たことがない。
なぜなら、初めて会ったときにはもう、私の両目は見えていなかったから。
だから、歌音さんがどんな顔をしているのか、わからない。
だけど、きっと優しい顔だと思う。
だって、歌音さんは初めて会ったときから5年間、ずっと私のお世話をしてくれているから。

「歌音さん、私…」

「ん、なに?」

「うで、痛いんですけどっ…!!」

「あは、ごめん〜ごめん〜♪」

でも、やっぱり意地悪ぽい顔もしてると思う。
うん…、してるな。

「そうだ、ヒナちゃん。今日の診察なんだけど高城先生がね、午後になるかもしれない、って。」

「午後ですか?いいですよ。」

診察が、午後になるのは、そう珍しいことではない。
私の担当の医者の高城先生は、腕がいい人で、いつも忙しく、たまに午後に診察が延びるのだ。

「ヒナちゃん、調子大丈夫?
久し振りの、散歩だから…具合悪くない?」

「あ、はいっ!大丈夫です。」

「そう?でも、あまり外にいたら具合悪くなり兼ねないから、もう中に入りましょうか、朝食も、まだだし。」


そうえば、そうだった。
あ〜、食べてないの思い出したら急にお腹が空いてきたっ!!

―ぎゅるる〜

と、隣の方からお腹がなる音がした。
歌音さんだ。

「あれれ?あは、お腹空いちゃった!
朝、早かったからチョコ一口しか食べてないんだ♪」

「ダメですよ?ちゃんと、食べないと。」

「はぁ〜い♪」

歌音さんは、そう返事をすると“朝ごはん〜♪”と歌って、また私の手を引っ張って病室の中へ入っていた。
はあ〜…。
うでが、……ヤバイ。







―午後


この日の午後は、ある人が来る予定だ。

―ガラガラッ

慌ただしく、病室のドアが開く。
私は、少しドキッとしながら、病室のドアを開いただろう人物の名前を呼んだ。

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