《MUMEI》
CASE-1 嫌がらせの怪
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―――工藤君から相談を受けてから数日後。


「…頼まれたもの、持ってきたよ」

やたら顔色が悪い工藤君が、教室で俺に声をかけてきた。その手にはスーパーのロゴが入っているビニール袋を下げている。

「悪いな、わざわざ学校に持ってきてもらって」

俺が労うと彼は、いいんだ…と力なく微笑みを浮かべた。相当身体が辛いらしい。沢井の嫌がらせのせいか。

差し出されたビニール袋を受け取り、チラッと中身を確認する。中には御札やお経が書かれた紙、そして気味の悪い人形が乱雑に詰め込まれている。沢井から送りつけられたものを実際に見てみたかったので幾つか持ってきてもらうように俺から頼んだのだ。

工藤君から聞いていた通り、それらは確かにひどく悪趣味なものだった。だが見た限りでは何かおかしな気配は感じない。ただただ不気味なだけである。といっても、こんなものを一方的に送りつけるヤツの気が知れないが。

袋を預かってから工藤君を見る。

「具合、悪そうだね」

率直に尋ねた。彼は、まぁね、と乾いた声で笑う。会話をするのもしんどいようだった。

「最近沢井はどう?」

疲れきっているところ申し訳ないと思ったが取り合えず状況を尋ねてみる。すると工藤君はぐったりとした表情を浮かべ、相変わらずだと答えた。

「今朝も下駄箱に御札が入ってたからその中に入れておいた。もう気が狂いそうだよ…」

全く気の毒なことである。

「彼女…レイコさんだっけ?そっちに被害は?」

工藤君は首を振った。

「今のところ大丈夫みたい。でもすっかりふさぎこんじゃって元気がないんだ…」

そっか、と俺は呟いた。
恋人が悪質な嫌がらせをされていて、しかもそれが自分のせいだと思っているのなら、落ち込んでしまうのも無理はない。彼女にとっても理不尽で不幸な話だ。

工藤君は進展はあったか尋ねてきたが、俺は首を横に振った。

「沢井のことを俺なりに調べてみたけど、今はまだ何とも言えないな…」

彼に相談を受けてから沢井について独自に調査をしてみた。といっても、彼女に直接接触したわけではない。彼女と同じクラスの知り合いに聞き込みをしたのだ。

知り合いによれば沢井はやはり静かな性分らしく、目立たない生徒らしい。しかし面倒見がよく、自ら進んで面倒な委員会の仕事を引き受けてくれたり、俺の知り合いも時々授業の課題を教えてもらったりしているそうで、クラスでの評判は悪くないそうだ。お嬢様のようなおしとやかな雰囲気もあるため、密かに男子からの人気もあるという。
また、その聞き込みのせいで知り合いに俺が沢井を狙っているのではと勘ぐられてしまったのは余談である。



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