《MUMEI》

一瞬、顔が歪んだ気がした。

いや、別に嫌な訳じゃないんだけども。


「あ、隣、山崎さん?」


低いハスキーボイスで、私にそう聞いたのは紛れもなく…。


「や、矢崎、くん…」


そう、矢崎健太だった。

…嘘、嘘、嘘でしょ。

よりによって、唯一の隣が矢崎健太?

仲良く出来る気がしない…。

亜希と席を交換してあげたい。


「なーに、そんな嫌そうな顔しちゃって!何、何?この前あんな見てたのに、俺の事嫌い?」

「…見てたっけ、あんたのことなんて…」


…あ、亜希が"矢崎くんかっこよくない?"って聞いてきた時か、多分。

でも、それって随分前じゃん。

忘れてたよ、私。


「酷いなあ。まあ、よろしくね!山崎愛香ちゃん♪」


チャラそ〜っ!もう、絶対チャラいじゃん、この感じ!

見た目チャラくて、中身まんま!

亜希みたいじゃんっ!

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