《MUMEI》
事情聴取
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教室から出て、隣のクラスへ向かった。そっと中を覗く。
たくさんの生徒が弁当やらパンやらを広げて、束の間の昼休みをのんびり過ごしている。

その中に、沢井の姿を見つけた。彼女も他の生徒達と一緒に昼食をとっている。時おり無邪気に笑う彼女が、まさかストーカーだなんて信じられない。


ここで沢井を呼び出すのも明らかに不自然だし、さてどうしたものかと考えながら廊下の窓から外を眺めていた。青く澄み渡った空の中を鳥達が悠々と飛び交っている。

その中に紛れて、おかしなものが見えた。

『ソレ』は明らかに鳥よりも大きな影だ。飛び方も変わっていて、くるくると円を描くように空中を回っている。まるで狂ったように動き回る。周りにいた鳥達も『ソレ』を恐れたのか、慌ててどこかへ飛んでいってしまった。嫌な予感がした。

やがて校舎にいる俺の存在に気づいたのだろう。『ソレ』は突然方向転換をして、俺が立っている窓辺に急接近してくる。物凄いスピードだった。

だんだん距離をつめていくうちに、『ソレ』の姿がはっきり見えてきた。


『ソレ』は女の生首だった。


髪の毛をなびかせ、青白い顔でこちらを見つめながら近づいてきたが、窓ガラスにぶつかるすんでのところで急停止する。

俺と女の首がガラス越しに見つめ合っていると、女はニヤリと不敵に笑って言った。


『クルックー』


どうやら鳩の鳴き声をマネしたらしい。しかも似ていない。


今すぐ消えてくれ、頼むから。


げっそりしながら心の中でそう呟くと、女は察したのかしょんぼりしたような顔をして空の彼方へ消えていった。


それを見送った時、ちょうど目当ての人物が教室から出てきた。沢井である。幸運なことにひとりだ。彼女は俺に目を留めず、目の前を通り過ぎた。

「…沢井さん、だよね?」

すれ違いざまそっと声をかけると、沢井はびっくりしたように振り返った。不思議そうな顔をして俺を見つめている。

「えっと、あなたは…?」

恐る恐る尋ねてきた。透き通るようなキレイな声だが、戸惑いの色を帯びていた。俺のことを知らないのだろう。話したことがないので当然であるが。

彼女の警戒心を解くため、俺は愛想笑いを浮かべた。

「隣のクラスの、灰谷っていうんだけど」

そこまで言うと彼女はサッと顔を強張らせる。

「隣のクラス…?」

うわ言のように呟いた彼女に、俺は頷いた。

「工藤君のことで君と話がしたいんだけどいいかな?」

彼の名前を出した途端、みるみるうちに彼女の顔が青ざめる。俺は確信する。間違いない。コイツは工藤君の嫌がらせについて何かを知っている。

ここじゃ人目につくから…と言って俺は沢井を促して歩き出す。彼女は逃げることなく俺のあとをついてきた。



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