《MUMEI》

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やって来たのは校舎の裏だった。ここならあまり人も立ち寄らないので安心して話ができると思ったのだ。

「早速だけど、工藤君のことについて聞いてもいい?」

俺は沢井にそうやって切り出した。彼女は警戒心むき出しの目付きで俺の姿をジロジロ見る。嫌な目付きだ。

それからさっきとはうって変わってつっけんどんな声で、その前に、と答える。

「灰谷くんだっけ?あなた、携帯を持ってるわね?さっきからずっと鳴ってるわ」

もちろん相手はアイツからだ。

鳴りっぱなしの俺の携帯に気がついたらしい彼女は軽蔑するような目を向けた。ちょっとだけ傷つくが覚られないように素知らぬ顔で頷く。

「持ってるよ。それが何?」

「それが何って、ずいぶん横柄ね。れっきとした校則違反よ、わかってる?」

「俺だけじゃないだろ?みんなだって隠して持ち込んでる」

「そうね、でもあなたはバレた」

「君にバレただけで先生に見つかったわけじゃない」

つーか何なんだこの会話。完璧に軌道がずれている。話を逸らす気だろうか。にしてもやたら携帯やら校則やらにうるさい気がする。

そんなことを考えていたら、沢井の次の台詞で納得した。


「残念ながらわたし、風紀委員なの。校則に違反している生徒は見逃せないわ」


ふふん、と得意気に鼻を鳴らす。その勝ち誇った顔はとてもおしとやかなお嬢様には見えない。知り合いを密かに恨んだ。アイツ、ホラ吹きやがって。つーか沢井が実直な風紀委員だっていう情報はなかったぞ。

悔しがっていると沢井がこちらに手を差し出しながらよく透る声で言ってきた。

「携帯を出してちょうだい」

「何でだよ?」

ふて腐れながら尋ねる。沢井は不敵な笑みを浮かべた。

「没収するの、当然でしょう?」

なんてこった…。

絶望的な気持ちになりながらも、もう心が折れかけているので素直に従う。工藤君には悪いが、嫌がらせについて追及する気力がなくなってしまった。申し訳ない、と心の中で平謝る。なんていうかちょっとコイツには勝てる気がしない。

携帯を受けとると彼女は、携帯の返却については担任に自己申告し、然るべき手続きを取るようにと事務的に述べた。俺は密かに舌打ちする。この猫かぶり女め。



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