《MUMEI》 . ひとしきり喋り倒したあと女はようやく憂の存在に気づき、あら?と首をかしげる。 「この子、もしかして彼女?」 違う、と即答したが女は無視する。こちらを睨みつけるフリをしたが、フリにしてはあまりに気迫が凄すぎてちょっとビビる。 「あたしというモノがありながらヒドイ男だね、君は!」 耳まで口裂いちゃうぞ☆、とおどけて笑ったが、全く冗談に聞こえない。 このままだと勘違いをしそうなので、クラスメイトなのだときちんと憂を紹介すると、マスク女はあっさり、だよねぇ!と納得した。 「君にこんなキレイな彼女がいるわけないもんね!」 あはは!と無邪気に笑った。失礼な発言にムカついたので、ヤツがもっとも嫌う『ポマード』という言葉を3回唱えてやろうかと思ったがやめた。そんなことをしたら激昂した女にホントに口を裂かれかねない。仕方ないので乾いた声で笑って許すことにした。 「あ、あの!」 憂が突然マスク女に声をかけた。女は、なあに?と首をかしげる。憂はもじもじしながら言った。 「あの、わたし、あなたのファンなんです!良かったら握手してもらえませんか?」 マスク女はキョトンとしたが、すぐにケラケラ笑って、やだぁ〜!と華やかな声をあげる。 「ファンだなんて、あたしはそんな立派なモンじゃないわよぉ!」 「いえ!ずっと憧れてたんです!」 「照れるなぁ〜」 言いながら二人は握手を交わす。憂は見たこともないくらい興奮している様子で、今度は一緒に写真を撮りたいと携帯片手に頼み始めた。それをマスク女は、今日はプライベートだから写真はごめんね、と大人の対応でたしなめた。至って平和な光景である。 とにかく場が和んだところで、気になったことを尋ねてみた。 「そういえば、こんなところで何してるの?」 マスク女が待ち伏せしているのは、ここよりもう少し先の場所である。 すると女は急にポッと頬を赤く染めた。 「…実はね」 おずおずと女が口を開いた時、 「スミヨさん、そこにいるの?」 清々しい男性の声が聞こえてきた。3人ともそちらへ視線を向ける。 そこには優しそうな雰囲気の若い男の人がいた。その手には白杖が握られている。目が不自由であるらしい。覚束ない足取りで、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。 . 前へ |次へ |
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