《MUMEI》 動揺に、言葉になっていない声を上げるばかりだった 「……大丈夫か?お前」 「だ、大丈夫です」 三原が顔を近づければ近づける程、動揺は増していき 熱でもあるのでは、と三原は相手の額へ自身のソレを重ね合わせる 「少し熱いけど、風邪か?」 自身が原因だと気付く事もなく だが心配してくれているという事がどうしてか嬉しくて 相手は僅かに顔をほころばせた 「大丈夫です。本当です」 「そか?ならいいけど」 懸命に大丈夫だと訴えてくる相手 暫く互いに顔を見合わせ、それからどちらからともなくところてんを食べる事を始める 二つの味のそれらを半分ずつ分けて食べながら 気付けば随分とゆっくりとしていたらしく、辺りはすでに日が暮れ夕闇に染まっていた 「じゃ、俺帰るわ。これ、ごちそうさん」 食べ終えると、三原はゆるり立ち上がり帰宅の途に着く 手を振ってやりながら身を翻した瞬間着ていた背広から何かが落ち だが気付く事無くその場を後に 相手がその事に気付いたのも暫く経ってから後で 拾いあげ、これは何かと小首を傾げる 拾ったソレは、財布 確認の為に中を窺って見れば、三原の免許証が入っていて どうしようかと一人慌て始めてしまう 「どうかしたかの。稔」 慌てる相手の背後、老人がまた現れる 相手・安堂 稔は老人の方へと向いて直り 三原の落して行ったそれを見せていた 「こりゃ、大変じゃの。稔や、持ってっておやり」 「わ、私が!?」 「彼もこれが無かった困ろうて」 今追いかければ間に合うだろうから、と背を押され 安堂は戸惑う様に老人の方を見やりながら、だが小走りに三原の後を追った 「……居た!」 何とか追いつき、シャツの背を思い切り掴み上げれば その引きに三原の脚が止まった 「どうか、したか?」 予想外のソレに僅かばかり驚いた様子の三原 安堂の切れ切れになってしまった呼吸が落ち着くのを待ってやり 改めてどうしたのかを問うてやる 「あ、あの、これ……!」 「なに?」 差し出してきたソレを伺って見ればソレは三原の財布で ソコで漸く、三原はソレを落としてしまっていたことに気が付いた 息を切らしてまで持ってきてくれた事に三原は僅かに表情を緩ませ 徐に、安堂の頭へ手を置き、髪をかきまわしてやる 「……悪い、助かった」 受け取ったソレを三原がポケットに入れたのを見届けると 深々と頭を下げ、安堂は踵を返していた そのまま見送ろうと眺めていた三原だったが 途中、何度も躓くその様に、一人返すことに不安を覚えてしまう 「……送ってくか」 仕方がない、と後ろ髪を掻き乱しながら三原は安堂の後を追う すぐに追いつくと 「……ちょっと待て。危ねぇから送ってく」 その手を取っていた 突然のそれに安堂は驚き 顔を見る間に高揚に赤く染め、身体を硬直させてしまう 「あ、あの……!」 「何?」 「手、繋いだまま……です」 その事を漸く指摘してやれば 三原は気付き、だが手を離してやる事はせず そのまま歩き始めていた 「……転ぶより、ましだろ。行くぞ」 素気なく聞こえる三原の声 緊張しているのは自分ばかりなのか、と 様子をうかがう様に安堂が見上げる事をしてみれば其処に 照れたような三原の表情があった 「……耳、赤い、です」 「……知るか」 恥ずかしさに、つい素気なく返してしまえば、そのまま歩き続ける三原 手を引かれながら、その背を眺めていた安堂が僅かに肩を揺らす 会話らしい会話は余りなかった だが三原とこうやって一緒に居るのは、安堂はどうしてか安心していた 「……送ってくれて、ありがと、です」 社務所へと到着し、深々と礼に頭を下げてくる安堂 三原は短く別にを返すと、安堂の髪を掻き乱してやり踵を返す 「あ、あの!」 後ろ手に手を振る三原のシャツの裾を咄嗟に掴み、引き留めれば 三原は何事かと首だけを巡らせてやる 「あの、えっと……」 掴んでみたものの、自分は何がしたいのか 解らず、みっともなく慌て始めてしまえば その安堂の頭上から、三原の溜息が僅かに聞こえてくる そして無言のまま、何かを差し出してきた 「……これは?」 出されたソレはコンビニのレシート 安堂がその意味が分からず、小首をかしげて向ければ 前へ |次へ |
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