《MUMEI》

学校の帰り道、俺は意気消沈していた。

夏休みに、クラスメイトと約束した事を全て断ってきた。

ゲーセンに行って、海に行って、彼女つくって、童貞とおさらば…

そんなくだらない事を言って、ウキウキな気分で今日という日を迎えるはずだったのに。


「はぁぁぁぁ」


何度目かわからないため息を吐き、足下の小石を蹴る。

なぜ約束を断ってきたかと言うと、この夏休みを利用して実の兄と親睦を深める、という話だ。

兄と、というか。

家族と。

と、いう方が正しいか。


俺が16年間、親父と呼んでいた人物は赤の他人だった。

本物の親父と親友だった育ての親父は、ある事情で育てられなくなった俺を引き取ったそうだ。

そして、子供が二十歳になったら真実を明かそう、と約束したらしい。

が、それがまたある事情で明かす時期が早まり、今になったらしい。


こんな現実離れした話をされて、なんで俺が信じたかというと、親父の戸籍を見たからだ。

話をしながら親父が出したのは、一枚の紙切れだった。

そこには、親父の名前の他に何も書いていなかった。


そう。


子供の名前が記載されていなかった。

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