《MUMEI》

「……ただいまぁ」


いつもより重く感じる、玄関のドアを開けた。

いっそのこと、このまま帰らないかなと思った。

だけど、俺にはそんなお金もなく。

結局、家に帰るしかなかった。


「お、おかえり。荷物は、もう車に積んであるからな」

「あ…そう」


玄関を開けてすぐ言われた親父の言葉に、そう答えるしかなかった。

用意周到というか、なんというか。

まぁ、今の俺だったら、明日の朝まで準備する気にならなかっただろう。

着替えようと靴を脱いでいると、親父に止められた。


「目的地まで、遠いからな。もう出発しよう」

「…着替えくらい、させてよ」

「大丈夫。着替えはちゃんと入ってるから」


はいはい、と靴をはかされ、クルリと半回転。

今、入ってきたドアの前に立たされた。

いやいやいや。

どんだけ、急かすんだよ。


有無をいわさず玄関を出され、車に押し込まれた。


「では、出発するぞ〜」


親父は、キャンプでも行くようなテンションだ。

エンジンが掛かり、車が動き出す。

親父のテンションについていけず、俺は窓の外の流れる景色をただ眺めていた。

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