《MUMEI》
専門家の話
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スミヨ達と別れたあと、俺は自転車をかっ飛ばし、急いで自宅へ帰った。途中、上半身しかない不気味な女を轢いたような気がしたが今は構っていられない。無視してペダルを漕ぎ続ける。


家につくと自転車を玄関先に乗り捨てて、すぐに父親の部屋へ駆け込んだ。

「親父、いるっ!?」

襖を開くのと同時に叫んだ。8畳間の和室に父親がこちらに背中を向けて座っている。父親はいきなり現れた息子に驚いたようで、弾かれたように振り向きあからさまにアタフタした。

「な、なんだ?どうした急に!?」

どもりながら何やら手元に置いてあるモノを慌てて隠そうとする。俺は気にせず部屋の中へズカズカと入っていった。

「教えてほしいことがあるんだ!ちょっと話を…」

聞いてくれ、と言葉を続ける前に、父親の手の中にあるモノに目を奪われた。


「…どうしたの、それ?」


それは、札束の山だった。軽く50万はある。


金を見つめながらそう尋ねると、父親はひきつりながら笑顔を浮かべる。

「いや、その、これはな、アレだよ!怪しいものじゃないんだ!」

ハハハ…と乾いた笑い声を立てながら、札束を着ている服の中に隠した。怪しい。

「まさかまた檀家を脅したんじゃ…」

父親は信頼してくれている檀家に対して、良からぬモノがとり憑いているとか何とか物騒なことを言っては、除霊代と称して日常的に金を巻き上げているクソ坊主である。

思いついたまま言うと、父親は、違う!と大声をあげた。

「これは副業で稼いだモノで!あ!副業って言ってもいつものように檀家を脅したワケじゃないぞ!印税なんだよ!出版社の知り合いに頼み込まれて、除霊に関する本を執筆したらたまたま売れただけなんだ!違うんだ!信じてくれ!」

何やら必死になって言い訳をしている。我が父親ながら情けない姿だ。知らないうちに本まで出版してたのか。つーかそんな物騒なもん売れんのか。世も末である。

呆れ果ててしまい、警察沙汰にならないならいいよ…と冷たく切り捨て、俺は本題に入る。

「親父の副業について聞きたいんだけど」

俺がそう言うと、いきなり父親は、何だ!と食いついてきた。

「ようやく後を継ぐ気になったか!?」

見当違いなことを言い始めたので、俺は、違うと切り捨てる。父親はしょんぼりした。

「お前には俺譲りの素晴らしい才能があるのに…」

父親は俺の特殊な力のことは知っている。その上俺は末っ子だが灰谷家の長男なので、父親は事ある毎に寺の後継ぎになるよう説得してくるのだが、他人の恐怖心を煽ってそれにつけこむような悪どいクソ坊主の後を継ぐ気は更々ない。身の破滅だ。



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