《MUMEI》

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父親は真剣な表情でじっと俺の顔を見つめた。

「結局、西洋の悪魔契約と同じなんだよ。誰かを呪う見返りにアイツらは人間の生気を奪ってやがて死に至らしめる」

「…最後は自分が殺されるってこと?」

「必ずしもってわけじゃないが、その兆候はあるはずだよ。急に元気がなくなったり、体力が低下したり。さまざまだがね」


どういうことだ?

この話は俺の推測に矛盾する。


当の沢井はゴリラのような馬鹿力で鉄拳をお見舞いするほどピンピンしている。悪霊の力を借りているなら、父親が言うようにもっと変化があるはずである。それこそ日に日にやつれていく工藤君のように。


ますますわからなくなった。


怪しげなものを一方的に送りつける沢井。悪夢や怪奇現象に悩まされる工藤君。桜の木の下に佇む不気味な女の噂。


もう少しで繋がりそうなのに、どこかちぐはぐで噛み合っていない気がするのはなぜだろう。


しばらく黙って考えていると、父親が訝しげに、一体どうしたんだ?と尋ねてきた。

「呪いの話なんて聞いてくるなんて、何かあったのか?」

俺は、別に、と素っ気なく答えた。このままここにいると、もっと食い下がってきそうなので早々と退室することにした。

参考になったよ、と告げて立ち上がる。父親は厳しい顔をして声をかけてきた。

「何があったかわからんが、変なことに首を突っ込むなよ」

しっかり釘を刺される。素人には危険すぎるということだろう。

俺は、わかってるよ、と投げやりに答え、さっさと出ていこうとした。

「待て、圭吾!」

その背中に、父親の鋭い声が飛ぶ。何だ、説教か?俺はダルそうに振り返った。

父親はゆっくり立ち上がり、俺の目の前に仁王立ちした。怖い顔でじっと見下ろされる。

少しの沈黙のあと、

「…母さんにはナイショだからな!」

そう言って札を一枚取り出して、俺のポケットにそれをねじ込んだ。さっきのナゾの金の口止めか。

斯くして俺は一万円札を手に入れた。ラッキー。


って、無邪気に喜んでいる場合ではない。


俺は父親に頷き返すと、とっとと部屋から出ていった。



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