《MUMEI》

仕立てたばかりの背広に、油の染みた髪が、触れあからさまに眉をひそめた。男は黄ばんだ牙を剥き出し、滑舌の悪い発音で謝罪する。

珍妙奇天烈、眼は血走り、口は避けている。まるで獣のような生物と言葉を交わし、人込みを掻き分け、フイリプは子供のように目を瞬かせた。

背広の油も忘れてしまう程には、愉しめている、フイリプの故郷で云うところの、今日はカーニバルであった。

露店では怪しい輝石や水晶が磨かれたり、黒焦げの蜥蜴や、媚薬なんてものが、尤もらしい瓶に詰められて置かれて在る。

フイリプは胡散臭い物を純粋に文化交流として、受け止めていた。
一つ不満を挙げるとすれば、先程から全く人が動かないということだ。

フイリプが隣の夫婦の会話を盗み聞きして予想する限りでは、見世物小屋に在るチープな作り物への見物客の流れだった。

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