《MUMEI》

絹の薄布が水に浸されたような鰭と、硝子細工で拵えたような鱗、視線の定まらないまだあどけない少女が、水草の陰から顔を覗かせる。

「貴方、満子に瓜二つですね。」

老婦人は老紳士に、娘と面影を重ねていた。
一方、フイリプは人魚に心奪われ、暫くは放心してしまう程であった。


「よし、五十円出そう。」

成金男が人魚を金で買収しようとする心根の醜さにフイリプは軽蔑する。しかし、それも覆された。

「六十でいいかな。」

老紳士も、成金男に負けじと手を挙げ、忽ち競り市が始まる。
その姿に失望しながら、フイリプは女に良い格好をしたい、という願望は、老いても普遍だという事実を目の当たりにした。
値は七十を超えたところで、フイリプは理性が切れた音を聞く。

「百円。」

気がつけば、指を垂直に立てていた。

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