《MUMEI》

「武。お前を育てるって言ったのは、父さんからだ」


親父はそう言いながら、タバコを取り出し火を付けた。

黙ってその様子を見ていると、親父は話を進めた。


「父さんとお前の父親が親友と言ったが、お前の母親とも親友だった」


だった?

過去形でいう親父に、首を傾げる。

親父は窓を開けて煙を吐くと、チラリと俺の方を見た。


「お前の母親は、父さんの想い人だった」

「……えぇぇ!?」


想い人って、好きな人ってことだよね!?

と、いうことは、親友の奥さんを好きになっちゃったワケ???!


口をパクパクさせる俺に、親父は苦笑をもらした。


「父さんとお前の母親とは、幼なじみだったんだよ」

「幼なじみ…」


少し、ホッとした。

親父が、惚れてはけない人に惚れたのかと思った。


落ち着いた俺を見た後、親父は視線を前に向けた。

その目は、どこか遠くを見ているようだった。

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