《MUMEI》

色々と、昔を思い出しているのかな?

黙ってしまった親父に、俺は疑問を投げかけた。


「なんで親父は、俺の母親と結婚しなかったのさ」


血の繋がらない子供を育てるほど、惚れた相手。

結婚できなかった理由、でもあったんだろうか?


「父さんに、勇気がなかっただけだよ。父さんの気持ち、教えたのは武が初めてだからな」

「…ウソだろ?」

「いや、ホント。ホント」


笑いながら言う親父に、呆れて言葉を失った。

普段の生活では知らなかったが、女性に対して奥手だったとは。

幼なじみで、想い人ってことは……


「初恋の人?」


俺の言葉に、親父はタバコをくわえながらあさっての方を向いた。


図星かよ。

どんだけ、純情なんだ。

このオッサン。


自分の人生の半分以上も、惚れた相手に捧げるって。

己は、尼さんかシスターか?!


俺は呆れつつも、羨ましいと思った。

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