《MUMEI》

…一体どんな悪いことを思いついたのか。

今の怪しげな笑みに私はゾッとした。


「…私がアンタを好きになるなんて絶対にないと思うけど…」

「そうかな?てか、キスから始まる関係ってのも悪くないんじゃない?」


…は?

何を言ってるんだ、この馬鹿。

キスから始まる関係?

ああ、笑っちゃう。

頭がクラクラしてきた。

今年は健太のせいで、夏バテなりそう。


「アンタさあ…、何おかしな事言ってんのよ。正気?」

「正気です」


馬鹿だ。紛れもない馬鹿。

私はため息すらつくのを忘れて、歩き出した。

こんな奴相手にしてたら、私まで馬鹿になってしまう。

私そこそこ頭良いんだから、馬鹿になんかなりたくないし。


「ちょっと、愛香!」

「家の方向違うでしょ。アンタを地元で見たことないし」

「え、そんな…ほんと冷たいなあ…」


"キスから始まる関係ってのも悪くないんじゃない?"

その言葉がぐるぐる回る。

…忘れろ忘れろ。

あんな馬鹿野郎の馬鹿みたいな言葉なんか。

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