《MUMEI》 . 登校して教室に入り中を見回すと、工藤君は既に自分の席に座っていた。先ほどと同じく疲労しきった顔であるが、彼の無事がわかりホッとする。 声をかけようか迷ったがひとまずやめて、俺は自分の席へ向かった。 「意外なことがわかったわ」 着席するなり、憂が紙を持って来て思わせ振りに言ってきた。 「何だよ?」 「読めばわかるわよ」 そう言って紙を突き出してくる。2枚あった。俺はそれを受け取り、チラッと目を遣る。 それはパソコンのページをプリントアウトしたものだった。どうやらメールの画面を印刷したらしい。長い文章が細々と並んでいる。 今朝色んなことがあったせいで正直なところ、長ったらしい文を読むのが面倒だったので適当に流し読み始めると。 その中の一節に、ふと目が留まった。 《この人形は呪いとは無関係と思われます》 人形? 考えてひとつだけ思いつく。昨日工藤君から預かった御札やらを見て、優は詳しい人に聞いて調べたいと人形をひとつ持って帰った。 工藤君に送られたあの気味の悪い人形のことか? 俺の考えを察したように、知り合いから返事が来たの、と頭上から優の淡々とした声が振ってくる。 「わたし達は勘違いしていたみたいね、工藤君は沢井さんに呪われていたワケではなかった」 俺は顔をあげて優を見た。彼女は無機質に輝く瞳を少し細めて俺を見つめている。 「そもそも人形を使って誰かを呪うために相手にわざわざ送りつけたりはしないそうよ。呪いをかけていることを第3者に知られるのは最大の禁忌なのですって。考えてみればその通りよね。《丑の刻参り》ってあるでしょう?藁人形に五寸釘を打って呪うっていう。あれもその儀式を誰かに見られたら呪いが自分に返ってくるって謂われているものね」 平淡な抑揚でそう説明する。 俺は再び視線を紙に戻した。 . 前へ |次へ |
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