《MUMEI》

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返信者の説明によれば、あの不気味な人形は呪いのためのアイテムではないと断言し、その理由をタラタラと書き綴っている。


沢井は工藤君を呪ってなんかいなかった。



一体どうなっているんだ?



沢井が彼に不気味なものを送りつけていたのは間違いない。御札を突きつけたときの彼女の表情を見ればそれは明白である。


仮に呪われていないなら工藤君を悩ます怪奇現象や、彼が日に日に衰弱していくのはなぜだろう?


それに、

―――あの女は?


遅咲きの桜の木の下にいた、あの女。あれは人間ではない異形だ。工藤君はどうかわからないが、沢井はあの女の存在をきっと知っている。今朝目撃した、沢井の決意を秘めた瞳を思い出す。邪魔するなと彼女は言った。『もう少しなのに』。あの言葉の真意は何なのか。

でも、彼女はどうやってあの女の存在を知ったのか。

彼女にあの女は『見えない』はずだ。そっちのセンスがないことは、俺の携帯にかかってきたふざけたイタズラ電話を取ったときに既に立証されている。


繋がらない。
手がかりの糸がもつれて俺の見当とは全く違う方向へ導いていく。



「…それじゃあの人形は一体何の意味があるんだ?」


俺のひとり言を耳ざとく拾った優が、それもわかったわ、と呟き、2枚目の紙を見るように促したので従い、

そこに書かれている内容を読んで、思わず自分の目を疑った。



まさか、

それでは沢井の目的は―――。



俺は優の顔を見る。彼女は微かに頷いた。最初に言ったでしょう?と囁く。


「…わたし達は勘違いをしていたのよ」


唄うような彼女の声が脳裏に響いた。この内容が正しければ納得がいく。


けれど、わからないことも残っている。まだ全てが繋がったワケではない。


思い悩んでいるとき、カバンの中に入っていた俺の携帯が鳴り出した。おそらくあのフランス人形のような女の子からである。今までは迷惑に思っていたが、ハンカチをくれた件も含めてアイツの正体がわかってからはちょっと嬉しい。我ながらゲンキンなものだ。



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